日別アーカイブ: 6月 4, 2008

同じ土俵にあえて乗らないということ.Family Medicine 2008 April Vol.40, No.4 (STFM)

Essays and Commentaries
Revolutionary Leadership and Family Medicine Education(pdf)
John W. Saultz

重要なpaperだと思うので,あえて別エントリーで.
何年か前から注目しているOHSUの教授,現在最も熱い北米家庭医療学のリーダーの一人といえるSaultzの論説.
それほど新しいことが書いているわけではないが適切な例やたとえを用いて良くまとめられています.

以下 翻案.

Thomas Kuhnの1962年のThe Structure of Scientific Revolutionという本を引き合いに話が進みます.
Kuhnによるパラダイムの定義は,以下の2つの特徴を含む確立された科学概念です.
1)対立する科学活動を信じている人たちを魅力的に引き寄せるだけのこれまでにない新しさをもっていること
2)科学者達が引き続きその領域で活動できるだけの十分な未開性を残していること
そしてそういった科学のパラダイムは既存のパラダイムを置き換えるような対立するパラダイムによってのみ置換され,それをscientific revolutionとkuhnは名付けた.

一方殆どの科学の発展はその理論や概念としての既存のパラダイムの中で積み重ねられた新しい根拠によって生じる.

scientific revolutionは滅多に起こらないが,その際はその変化に巻き込まれた分野は基本的な原理の根本的な変革がおきる.

現在の医学のパラダイムは1910年のflexnerに立ち返る.その基本原理のいくつかは(table1)
a)医学は,科学的方法論に乗っ取ったとき最も効果的である
b)深い知識と臨床的な専門性が卓越を定義する
c)専門分化はシステム改善の特徴である
d)医師は病気を治療する.よって病気の過程(disease process)についての知識が能力を定義する
e)疾患は毒物,感染,遺伝的な異常など明確な障害によって起きる.因果関係は一対一である

しかし1940年代にはそのパラダイムは既にその問題を見せ始め,1960年代後半から家庭医療はそれらの問題に立ち向かうために作られた.
それらの内の前記(table1)に対応する物として
a’)医学の用いる科学的方法はより広義の物であるべき.従来の生理学や生物学に加え,社会科学,行動科学など.
b’)卓越の定義には深い知識だけではなく広い知識とのバランスが必要である
c’)過度の専門分化は費用増加を生み,アクセスを妨げる.generalismとspcializationはバランスがとれていなければならない
d’)医師は,患者と,患者の住む地域を治療する.単に病気を治療するのではない.
e’)疾患は環境要因や生活習慣の選択に大きな影響を受ける.因果関係は基本的に複雑である.

しかし家庭医療はこれまでの40年間は他の医師に受け入れられるためだけに従来のflexnerパラダイムの中にこれらを無理矢理適合させようとしてきた.もし我々の目標がアメリカの健康を改善することだけであればそういった妥協もやむを得ないかもしれないが,もし我々の目指すことが,新しいパラダイムの創出であるならば,妥協をしすぎたのではないか.
家庭医療は改善者なのか改革者なのか?
Kuhnはscientific revolutionが生じる時は非連続性で鋭利な変化であるとする.
例を挙げるとニュートン力学から,相対性と量子の物理学へ.つまり基礎にある科学の前提条件の再構成が存在する.
今アメリカの20世紀の医学かKuhnの定義するrevolutionによって,置換されつつあることを示唆する根拠がいくつもでてきている.それらを引っ張るのが我々ではないのか?

教育に関連して(table2)
1969-2007までの家庭医の教育の前提
1)家庭医には知識の深さではなく広さ(包括性)が必要
2)病院や他の医学領域から信頼されることは必要
3)研修環境は実際の診療現場に似せなければならない
4)地域の中での研修が最高の家庭医を生む
5)責任感・責任性は継続的な関係の中での医師として振る舞うことで学習される
6)経験=能力.質=ケアの過程がよい
現在の研修はこれらの前提が正しければ,今の形がよい.しかし,その前提が正しいとは誰が証明したのか?
この先何十年もこの前提は真実であり続けるのか?

Kuhnによると現在最も幅広く流通しているパラダイムが既に現状にそぐわない物であっても,実行可能で,信頼できる,別の理論が提示されるまでは置換されることはないという.
そういったパラダイムの形成は我々の仕事ではないのか?
Saultzの教育に関する提案(Table3)
現在実践されている家庭医療がdysfunctional(機能していない)ならば現在のモデルをマネした研修環境の整備は無意味である.
1′)包括的な知識の広さ(深さではなく)が家庭医療のチームに必要.現代の非常に膨大な情報世界を生き抜くために洗練された情報テクノロジーが必要
2′)病院や他の医学領域から信頼されることは重要であるが,それらの価値観を追うよりはこちらが引っ張る(lead)べき.
3′)研修環境は実践の継続的な改善を生み出すべき
4′)様々なことを実行する新しいやり方を研究したり,生み出したりすることを学ぶ活動に基づいたinnovation-based educationが最高の家庭医を生む.
5′)責任感・責任性は継続的な関係の中での医師として振る舞うことで学習される.医師は単に疾患だけでなく,患者と集団(population)を治療する
6′)卓越したアウトカム=能力(competence)と質

しかしこれらの提案も正しいかどうかは解らない.どうやったらそれで良いのかが解るのか.
何か新しいことをやったら必ずその効果を検証する.あくまでこれはスタート地点でしかない.

現在のシステム(パラダイム)が問題だとすれば,それを蘇生しようとするのは間違い.修理するのではなく入れ替えなければ.患者さんに現在のシステムがつかえるように手助けをするのではなく,現在のシステムの行き過ぎなところや不足しているところの弊害を受けないように守らなければならない.

scientific revolutionは計画された変化ではない.カオス的で,予想できず,二極的である.
そういった変革を乗り切るには適応性の非常に高いリーダーとチームが必要.(診療所,レジデンシー,大学の全てに置いて)

ここで2種類のリーダーが両方必要といっています.
家を建てる際の建築家(architect)と工務店(builder)にたとえて.
architect type builder type
創造的          統率のとれた
革新的          信頼できる
美的な          機能的な
理論的          実践的
リスクをとる       リスクを管理する
未来志向         現在志向
概念的          具体的

う~ん,今までいわれてきたリーダーとマネージャーの役割分担ではないか.ここはお粗末.
これまでの家庭医療のリーダーはbuilder型が多すぎたとのこと.

両方のリーダー(まあ一人の中に両方のスタイルがバランス良く含まれていても良いのですが)を抱えたレジデンシーチームが以下の4つに注意して進めることが重要と

1)対象とする地域のニーズに真剣に対峙すること
2)対象とするレジデントをよく見て,評価すること.
3)実行する全てのことの結果をを測定し,記録し,分析すること
4)地域の家庭医のニーズをきちんと取り込むこと
(レジデンシープログラムは病院資本のことが多いが,病院のニーズはそれほど気にするな,と)

こんかいのSTFMのpleanryでも同様のことを協調していましたが,現場で何が上手くいって,何が上手くいかないのかを自分たち自身の改善のために調査(研究というと堅苦しくなるので)をし続けて,現場を良くしていく方法を内包した実践の場.その方法論の教育の重要性を強調していました.

Saultzさんホント強い人だナーと思います.

参考)

“We can’t solve problems by using the same kind of thinking we used when we created them” -Albert Einstein 「私たちは,問題を作り出したときと同じ思考方法を使うことでは,その問題を解決することはできない」アルバート・アインシュタイン

週刊医学界新聞
研究以前のモンダイ
〔 その(14) 〕
アナロジーに基づく一般化

西條剛央 (日本学術振興会研究員)

第14回のみを挙げましたが,このシリーズは骨がありますが,一度考えておく必要があります.名郷先生が最近盛んにいう構成主義も同じラインです.

P.S.これからはいっそうリサーチも頑張ります.

Family Medicine 2008 April Vol.40, No.4 (STFM)

Family Medicine 2008 April Vol.40, No.4 (STFM)

批判的吟味までは及んでいません.メモ的に.
重要度は便宜的に
5:全ての家庭医が読むべき
4:教育者,研究者は読むべき
3:時間があれば
2:暇ならどうぞ
1:特定の領域の先行文献として重要になり得る
としました.

Residency Education
Required Procedural Training in Family Medicine Residency: A Consensus Statement

Melissa Nothnagle, Julia M. Sicilia, Stuart Forman, Jeremy Fish, William Ellert, Roberta Gebhard, Barbara F. Kelly, John L. Pfenninger, Michael Tuggy, Wm. MacMillan Rodney, STFM Group on Hospital Medicine and Procedural Training

以前のエントリーで紹介
重要度:4

Clinical Research and Methods
Which Medical Interview Behaviors Are Associated With Patient Satisfaction?
Yousuke C. Takemura, Reiko Atsumi, Tsukasa Tsuda

これも以前のエントリーで紹介
重要度:3

Faculty Development
Toward Measuring the Domains of Mentoring
John Rogers, F. Marconi Monteiro, Amaury Nora
メンタリングという活動を定量化するために作られたチェックリストの妥当性検証の論文.(メンタリングされた側の経験として)割と良い評価表のようであるが,29項目.
但しこれを眺めることで,メンタリングの際にメンティー(本文ではprotegeと表現)がどの様な体験をすることを目指せばよいのかが参考になる.
重要度:4

Health Services Research
Preliminary Study of a School-based Program to Improve Hypertension Awareness in the Community
Anthony J. Viera, Joanne M. Garrett
小学校5年生のに対して血圧の説明や害,血圧の測り方を教えて,自動血圧計をもってかえらせ,親の血圧を測定し,親に血圧について学んだことを説明させる宿題を与える.
2ヶ月後,介入群の27.5%の親が血圧について,医療従事者にかかったかかかるつもりがあると応えたのに対し,非介入群は8.3%
直接話した相手から間接的にその家族に影響を与えようというのは家庭医らしい発想.
重要度:4-5

Training Family Physicians in Community Health Centers: A Health Workforce Solution
Carl G. Morris, Brian Johnson, Sara Kim, Frederick Chen
CHC (community health center)は米国において,政府の出資により,無保険者や,保険が不十分な人に対し,プライマリケアを提供するための全米チェーン(6000以上のサイト)
家庭医の研修の一環としてそのような施設で研修を行うことがあるが,最低1年間CHCにおいて継続外来を行ったレジデントとそうでないレジデント(non-CHC)を比較すると,研修や,現在の仕事の満足度,診療領域に差はなかったが,性別や,フルタイムかどうか,卒後年数などを調整してもCHCの方がnon-CHCの2.7倍underserved(医療資源の少ない地域)で働いている率が高かった.(64%vs37%)
検討の対象は1986-2002年の838名の卒業生.
であるから,underservedでの医療に携わる人を増やすには研修でそのようなサイトを利用すると良い.という提案.
要は僻地に医者が少ないなら,研修の段階で僻地で一定期間過ごすとその後もそのような場所で働く可能性が上がるということへ拡大解釈は出来る.
学生実習,初期研修の地域医療の1ヶ月,generalistの後期研修の一定期間,医師の少ない地域へ.
家庭医療学会のプログラム認定要件にもそれらしき項目は含まれている.
重要度:4

Essays and Commentaries
Revolutionary Leadership and Family Medicine Education
John W. Saultz
何年か前から注目しているOHSUの教授,現在最も熱い北米家庭医療学のリーダーの一人といえるSaultzの論説.
これは別エントリーで...

Letters to the Editor
Country-centered Family Medicine
Sunil Abraham

以前の出版に対しての手紙.米英がその産物を第三国に持ち込む手法(家庭医療も然り)に対して,paternalisticな医療ではなく,その患者の考えなどを踏まえて行うpatient-centered medicineが推奨されるように,家庭医療未開発国に対してその国の事情その他を加味してcountry centered Family Medicineをして下さいね.というインドのドクターからの手紙.一方的に先進国の手法や価値観をそのまま持ち込むのをわたしはimperialism(帝国主義)と呼んでいます.まだまだそういうやり方多いです.海外の人が親切心でそういうのはまだしも.日本人がそういうやり方をありがたがっていることも少なくないので要注意です.これをinternalization(内面化)と呼びます
重要度:3

President’s Column
Assembling Patient-centered Medical Homes in Teaching Practices—One Strategy
John C. Rogers
現在のSTFMのpresidentのコラム.Patient-centered Medical Homesの構築の方法論を箇条書きで.これについても詳細が書きたいが割愛.
重要度:4