ムンプス(おたふくかぜ・流行性耳下腺炎)の隔離は5日でよい(か?)

表題の通り

出たばかりMMWRのweekly reportから.

Updated Recommendations for Isolation of Persons with Mumps
MMWR October 10, 2008 / 57(40);1103-1105

CDC:Center for Diese Control
AAP:American Academy of Pediatrics
HICPAC:Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee
の合同推奨.

まず結論.

耳下腺の腫脹から5日間の
1)地域,また医療機関内において隔離をする
2)標準的予防措置+飛沫感染予防措置

という変更が行われた.(これまでは9日だった.これでも日本より短い.)

その他の推奨は変更なし(以下の通り)
ムンプスの免疫の証明のない(*)医療従事者でムンプスの患者に接触した場合は最終の接触の日から数えて12日目から26日目まで勤務から外れること.

(*)免疫の証拠がないとは:医師によるムンプス罹患の診断歴,血清学的なムンプスへの免疫の証明,1957年以前の出生のどれか.

地域や医療従事者でのムンプスの予防についての最前の戦略は予防接種による,十分な集団免疫の獲得.
現在の推奨は
*全ての子どもに2回(12-15ヶ月と4-6才)
*全ての子ども,高校以降の集団(大学など),海外へ旅行するもの,医療従事者については免疫の証明がない限り2回の接種
*その他の成人は最低1回のMMRワクチン

その他の流行予防の対策としては
症例の隔離
免疫の証明のない医療従事者の暴露後の業務除外
標準的予防策+飛沫対策
(再掲)

耳下腺の腫脹から5日経った後も唾液や呼吸器分泌物からのウイルスの分離は見られるものの,頻繁に検出されるのは耳下腺腫脹前,腫脹発生時周辺であり,4日経過した後はその分離量も急速に低下する.
そのため,5日後の感染のリスクは低いと考えられ,殆どの感染は耳下腺の腫脹前,そして腫脹から5日以内に生じる.それ以上の隔離は,結局遵守されず(less compliance),それに伴う費用もかかる割に,感染の増大防止への貢献度は少ない.

詳細に興味ない人はここまで.

Based on this review, CDC, AAP, and HICPAC now recommend a 5-day period after onset of parotitis for 1) isolation of persons with mumps in either community or health-care settings and 2) use of standard precautions and droplet precautions. Postexposure recommendations remain unchanged. HCP with no evidence of mumps immunity who are exposed to patients with mumps should be excluded from duty from the 12th day after first exposure through the 26th day after last exposure.

The best strategy for preventing mumps in the community and among HCP is promoting high levels of immunity by vaccination. A 2-dose regimen is currently recommended for all children, with the first MMR vaccine dose administered at 12–15 months and the second at 4–6 years. Unless they have other evidence of mumps immunity,§ all school-aged children, students in post high school institutions (e.g., colleges), international travelers, and HCP also should receive 2 doses of MMR vaccine. Other adults should receive at least 1 dose of MMR vaccine.¶ Other methods for decreasing transmission in the community and health-care settings include 1) isolation of cases, 2) postexposure exclusion from duty of HCP without evidence of immunity, and 3) use of standard precautions (including respiratory hygiene and cough etiquette) and transmission-based droplet precautions while caring for patients with mumps.

§ 1) Documentation of physician-diagnosed mumps, 2) laboratory evidence of immunity (i.e., positive mumps immunoglobulin G), or 3) birth before 1957.

この変更は,AAPが2007年に行った変更に追従するもの(知らなかった...)

今回のレポートでの科学的根拠のまとめ

2006年の米国でのムンプス再興からわかったことは,大学などでは9日間の隔離の遵守度は65%程度(4-5日なら86%)
2007年に過去の文献の再検討により,AAPが外来における医療従事者の隔離の推奨を9日から5日へ短縮.

実際にウイルス分離の研究はワクチン導入前の7つほどしかない.継時的なウイルスの分離率は,(以下 耳下腺腫脹からの日数(腫脹前はマイナスで表示),ウイルスが検出された割合,ウイルス検出検体数/全体の検体数)

-6~7 17% (1/6)
-2~3 40% (4/10)
-1 86% (6/7)
0(発症日) 78% (7/9)
+1 81% (29/36)
+2~3 49% (18/37)
+4~5 40% (6/15)
+6~7 17% (1/6)

8番目の研究
MMR2回導入後の研究が1つ 2006年の大学でのアウトブレイク時のもの.PCRでウイルスを同定

0~+3 35% (7/20)
+4~+22 0%

9番目の研究 日本
数値の引用はされていないがpubMedまでさかのぼりました.

Okafuji T. et al. Rapid diagnostic method for detection of mumps virus genome by loop-mediated isothermal amplification.J Clin Microbiol. 2005 Apr;43(4):1625-31.

+2 90% 30/33
+4以降は減った,としかabstractには書いてありませんでした.その際にSVF(secondary vaccinne failure)の症例の方が同定量は少なかったとのことです.

Mumps virus was isolated in 30 of 33 samples within day 2, and mumps virus genome was amplified by LAMP in 32 of them. The quantity of virus titer was calculated by monitoring the time to reach the threshold of turbidity. The viral load decreased after day 3 and was lower in patients serologically diagnosed as having SVF with milder illness.

病院での医療従事者への感染については86-87年のテネシーでのアウトブレイク時にERでのものが報告されているが,医療従事者でのムンプスの症例の殆どが,ERにおいてではなく,地域で感染したと考えられている.
また適切な症例の隔離によっても感染が生じることより,耳下腺腫脹(診断確定)前に既にウイルスが放出されていることが他の研究結果を裏付けている.とされています.

さて,日本の学校保健法
学校保健法施行規則
(昭和三十三年六月十三日文部省令第十八号)
最終改正:平成二〇年五月一二日文部科学省令第一六号

第二章 伝染病の予防
一部省略

(伝染病の種類)
第十九条  学校において予防すべき伝染病の種類は、次のとおりとする。
二  第二種 インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H五N一)を除く。)、百日咳、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、水痘、咽頭結膜熱及び結核

(出席停止の期間の基準)
第二十条  令第五条第二項 の出席停止の期間の基準は、前条の伝染病の種類に従い、次のとおりとする。

二  第二種の伝染病(結核を除く。)にかかつた者については、次の期間。ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときは、この限りでない。
ニ 流行性耳下腺炎にあつては、耳下腺の腫脹が消失するまで。

ミソは

ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときは、この限りでない。

米国の推奨はMMR2回接種時代の推奨(ただし,研究の根拠となるデータの殆どはワクチン導入前)

ムンプスワクチンの接種率は定期接種でないため正確なものはないが,

勧奨接種移行後7年間の予防接種実施率の検討とムンプスの現状
(Vol.24 p 106-107)

の表1からは30%前後.米国ワクチン導入前に為された7つの研究の結果の法を適用してよさそう.

つまり,(以下再掲)

+4~5 40% (6/15)
+6~7 17% (1/6)

6日目以降も6人に一人がウイルスを排出(量は少ないかもしれないが)をどうとるか,ということ.

勿論ウイルスが1コピーでも見つかれば隔離というと,大変理不尽であるし,恐らく大事を取っても1週間,というところが妥当なのではないだろうか.

たかがムンプスという事なかれ.

「定点当り報告数」とは

正確な発生数は把握できないが,当院でも年に2-3回の地域での流行を見る.

上記リンクより
[流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)   2005年第7週の場合)]
2979件という数字がある(報告全数と思われる)

ここからはフェルミ推定(おおざっぱ推定)なのだが,
半分のお母さんがパートに出ているとして更にその半分が親戚などに預ける統べなく仕事を休みとすると
約25%の750件のお母さんがパートを休むことに.
時給1000円,4時間として 4000x750=300万円 (1日あたり)

この人達が10日間(実感として耳下腺腫脹が消失するまでだとそのぐらい)休むと,3000万円収入を生み出す(このお金が消費されて経済効果を生む)

これが,5日まででよい,となると1500万円分は一般家庭に落ちることになりずいぶんと経済効果は違う.

流行性の疾患なので厳密ではないが,上記が1週間あたりであるから,X50で1年分7億5千万円の経済効果..

ちゃんとした費用対効果の試算をするにはワクチンの費用や,ワクチンによる予防効果などもっとデータが必要なので,ここでとどめるが,30%の接種率では(しかも1回)普通の自然流行と変わらないのではないかと思う.

意外と現在の日本経済の低迷は政治家や銀行,証券パーソンだけのせいではないのでは...

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