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(part 2) Q&A「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください「健」2012年 1月号 Vol.40-10 p.13-14

お待たせしました第2弾
http://www.scribd.com/doc/75813813

よりscientificな部分。一応確認のためcommon cold, body temperatureなどで検索、2005年の論文に行き当たり,そこからは孫引き。

影響がない(差がない)とされた、古い論文2編。
どちらも古く,しかも対象者数が少ない,デザインが現在の科学的な考え方からすると妥当性が低い,などの問題を抱えています。
現在同じリサーチクエスチョンで追試をやれば有意差が出る可能性があるかも知れません。

Dowling HF, Jackson GG, Spiesman IG, Inouye T. Transmission
of the common cold to volunters under controlled conditions. II. The effect of chilling of the subject upon susceptibility. Am J Hygiene 1958; 66: 59–65.
http://aje.oxfordjournals.org/content/68/1/59.extract

Douglas RGJ, Lindgren KM, Couch RB. Exposure to cold envir- onment and rhinovirus common cold. Failure to demonstrate effect. New Engl Med J 1968; 279: 742–747.
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJM196810032791404

体を冷やすと血管収縮によって粘膜の機能が落ちるという論文(古い!)
なんとpdfが見られます。怪しい機械を使っています。
Mudd S, Grant SB. Reactions to chilling of the body surface. Experimental study of a possible mechanism for the excitation of infections of the pharynx and tonsils. J Med Research 1919; 40: 53

そしてごく最近の差があったという論文。
Johnson C, Eccles R. Acute cooling of the feet and the onset of common cold symptoms. Family practice. 2005;22(6):608-13. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16286463 [Accessed August 5, 2010].
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16286463

簡単に概略を
研究デザイン:RCT(盲検なし)
P:健康なボランティア(カージフ大学の学生)180人 室温18−25度の環境
I:足を冷やす (靴と靴下を脱いで、10度の水温の9−10リットルの水の入ったバケツに20分足をつける)
C:何もしない (靴、靴下をつけたまま,空のバケツに20分足を入れる)
O: 感冒様症状(4、5日後に感冒様症状を訴える人の割合。自己申告。ウイルス学的な感冒の成立ではないが、まあ合理的)、感冒症状スコア
結果:症状スコアにも有意差、4−5日後に風邪をひいたと申告する人が、対照群では5.6%だったのに対し、介入群では14.4%、(リスク比 2.57倍, NNH=11)

言えること
健康な若い人の裸足を10度の水で20分冷やすと4−5日後に自己申告で風邪だという人が2.57倍になる。
一方で、たとえ足を冷やしたとしても風邪症状を訴える人は7人に1人で、それ以外の人(7人に6人)には何も起きないこと、

言えないこと(拡大解釈になる)
頭寒足熱の足熱(足を温める)ことが健康にいいかどうか(風邪を引きにくいかどうかについてさえ)は不明。

すごいのは、まだ研究デザインや手法も洗練されていなかった時代に「結論が出た」もしくは「お金にならない(しばしば新薬を使わない研究はお金になりません)」として40年近く誰も取り上げていなかったリサーチクエスチョンを発掘してたったの180人で有意差を出してしまったところ。アイデアの勝利。研究はいつも着眼点なのです。

ちゃんとこの研究を実施する前に先行研究も調べ尽くしています。
Eccles R. Acute cooling of the body surface and the common cold. Rhinology. 2002;40(3):109-14. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12357708 [Accessed January 4, 2012].

しかもfirst authorは英国カージフにある感冒研究所!(そんなところがあるのですね)の所長
Common cold center (Cardiff)
http://www.cardiff.ac.uk/biosi/subsites/cold/

P.S.その1 ちなみに中国医学にそういう考えがあるかと個人的に東洋医学の専門医に聞いてみましたがそのような考え方はない,とのことでした。(personal communication)

P.S.その2
「健」の執筆には詰めの甘いところが一部残っています。done is better than perfectということでご容赦ください。

詰め切れていないところ
1. 「1987年頃の調査で、部屋の中で高さによって温度差があっても、足元より頭部付近の温度をやや低めにした場合に不快感が少なく、学習など精神的作業の能率も向上するという結果が出ていますが」ー>の表記については、
東リのサイト 住まいづくりのライブラリー「MAINTE vol.9」(1995年12月10日発行)で引用されている 「上部気温の違いによる快適感の時間変化(下部気温25度の場合・被験者男子6名)出典:清文社「セミナー健康住居学」」のデータをもとに引いていますが、原典に当たる時間が足りませんでした。被験者6名なので、再現性はどうかと思いますが。
その直前の

手と足の局所的な温冷感を比べると、手の皮膚温が20度以下になると不快な冷たさを、15度以下で極限の冷たさを、10度以下で痛みを感じるのに対し、足の場合は手より3度低い温度で同じ反応を示します。足は身体のどの部分よりも冷たさを敏感に感じ取るのだと言えます。そのため、足を暖かくすれば、人はより快適に感じると考えられます。

も興味深い記述でしたが、出典がなく検証が出来ないので,不採用としました。

2. keep head coolについては物理的に頭を冷やす(温度を下げる)という意味以外にも慣用表現として冷静でいるという意味に通常使われますが(日本でも頭を冷やすにはそういう意味がありますね)、keep feet warmが慣用表現として「自ら(足を使って)行動して事に当たる」ことを意味することを担保する記述は見つけられませんでした。ここ大事なところなのですが。これは,出典のないネットの記述をそのまま引っ張っています。(あれば教えて下さい)

3. 「気候や暖房により空気の乾燥が進むと、ウイルスが空気中に滞在する時間が長くなること」これが科学的に本当かどうかについては、懐疑的な記述(ここ)もありますが、匿名で,出典もないので、やはり不採用としました。(あれば教えて下さい)「気候や暖房により空気の乾燥が進むと、ウイルスが空気中に滞在する時間が長くなること」自体を証明する記述も見つけるに至っていませんが。ただし,上気道の粘膜保護など別の理由で加湿は意味があると思います。(これも出典は見つけられていません)北海道のS.K先生ご指摘ありがとうございました。

以上の理由で学術論文としては出来が不十分です。学術論文のmethodとresultの部分以外には全ての文章に引用が必要であることを忘れずに。

P.S.その3
ということで、頭寒足熱の健康に対する効果そのものはまだ科学的には検証されていません。誰かやってみませんか?

P.S. その4
「健」発行部数 公称月間30,000部です。読者層が医師ではない,ということはありますが小学校の養護の先生を中心に子供たちとその保護者への影響力があると思います。(参考 レジデントノート 16000部 JIM 7500 治療 12000 プライマリ・ケア連合学会誌 6000ぐらい)

インパクトファクターばかりにこだわらずこういう形の影響力にこだわることも特に家庭医としては大切と思います。

長文お読みいただきありがとうございました。

関連するエントリー
インパクトファクターと読者数(academic value vs fidelity)
https://pcij.wordpress.com/2008/02/05/

Q&A「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください「健」2012年 1月号 Vol.40-10 p.13-14

https://pcij.wordpress.com/2011/12/25

Q&A「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください「健」2012年 1月号 Vol.40-10 p.13-14

養護教諭は看護師や保健師の免許はいらないことをご存知でしたか?(あくまで教員免許だけです。もちろん両方持っている人もいますが,必須ではありません)

このところ執筆依頼が続いています。(うれしい悲鳴)
ある日突然、日本学校保健研修社「健」編集部というところから執筆依頼の郵便。
ほどなく電話があり、いろいろとお話を聞きました

養護教諭向けの雑誌が主要なものが2つあるがそのうちのひとつだそうです。養護教諭がふと抱える健康についての疑問や保護者から受ける質問などを専門家が答えるQ&Aのコーナーがあるそうなのですが、その中に表題の
「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください 
というのがありました。
それまでに抱えていた各科執筆陣にいろいろ聞いてみたところ、みなさん「僕の専門ではない」「家庭医みたいな人がいいんでないの〜?(家庭医,という言葉が出たかどうかははっきりしませんが)」とのことで,一生懸命家庭医を探したところ私のところにたどり着いたとのことでした。(これもネット経由)

雑食の医者としては、そんなことならお受けしない理由はない(求められればなんとか答えようとするのが家庭医の性(さが))。
ということで,いろいろ調べてみたら「意外な事実が!」
何でも興味を持って調べてみるものですね。

執筆はそれこそ看護師ももたない養護の先生方向けに書きましたので、学術的な記述はありませんから、それも含めてもう少し詳細にここで,紹介しておきます。(いわゆる最近のDVDについてくる「メイキングオブ〜」です)

http://school-health.co.jp/index.html
http://school-health.co.jp/ken_news.html

Q & A
■「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください
Q:M・S/A:岡田 唯男

岡田唯男 Q&A  「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください 「健」2012年 1月号 Vol.40-10 p.13-14

さて本文はこちら
原稿の公開の時期と方法については、出版社の快諾を得ております。(編集部 ◯本千◯さまありがとうございました)

http://www.scribd.com/doc/75813813

執筆の手がかりはここから
http://med-legend.com/column/urbanlegend7.html

真ん中あたり
ただしこれだけを転記しては学問に携わるものの端くれとしては不十分。
その裏を取りました。

プロジェクトグーテンベルグ http://www.gutenberg.org/ と称して,古い本をネットに。(青空文庫のようなものですね)
http://www.gutenberg.org/files/14985/14985-h/14985-h.htm
The Project Gutenberg EBook of Valere Aude, by Louis Dechmann
において、2005年にネット化されたLouis Dechmannによる、1918年の書籍、 
Valere Aude(DARE TO BE HEALTHY) or THE LIGHT of PHYSICAL REGENERATION
A vade mecum on BIOLOGY and the HYGIENIC-DIETETIC METHOD of HEALING
というタイトル。
さしずめ「健康に生きる(生物学と、癒しの為の衛生と食事の方法のマニュアル)」といった感じでしょうか。

ここにBoerhaave/ブールハーヴェ(ボーアハーヴェ?)の記述があります。
長いがそのまま引用

“Art may err, but Nature cannot miss,”—is an aphorism attributed to the poet Dryden. It adequately supports Dr. Rucker’s wise, significant and timely pronouncement and reminds me of an illustrative incident recorded in connection with the world famed physician Boerhaave of Leyden,—Holland’s chief centre of learning—who lived some 250 years ago, when doctors knew less than at present of the circulation and functions of the blood.

Boerhaave, it appears, conceived the idea of a sort of posthumous pleasantry, of a distinctly lucrative nature, at the expense of his medical brethren. Professional ignorance and popular superstition had alike surrounded his name with a halo of mystery and he was credited with almost miraculous powers of healing and the possession of the Secret of Disease and Health.

At the sale of effects, following his death, there was a great gathering of the most celebrated physicians of the day and his books and records fetched fabulous prices. But one special tome, ponderous, silver-clasped and locked, entitled: “Macrobiotic, The True and Complete Secret of Long, Healthy Life,” was the cynosure of every avaricious eye. The auctioneer shrewdly reserved it until the last. Amidst a scene of unparalleled excitement and competition the Great Book was at length knocked down to a famous London physician for no less a sum than seven thousand Gulden. When opened with eager anticipation before the disappointed bidders, its pages were found to be blank—with one exception. Upon this one was inscribed in the handwriting of Boerhaave himself, only these ten words:

“Keep the head cool, the feet warm, the bowels open.”

Turning to an excited audience it was thus the great London authority spoke:

“I once heard it said that the world is simple; that health is simple; that it is the folly of man that causes all complications, and that it is the delicate task of the true physician to reduce everything to its original simplicity. Heaven knows that our great Master, Boerhaave, has solved life’s problem. To me this truth is well worth the 7,000 Gulden I pay to secure it; while to you, my friends, who have travelled from distant parts of the globe in search of it, receive from me the legacy of our Master and also be, likewise, content.”

彼の死後彼の著作がオークションにかけられ,その中で最も注目された”Macrobiotic, The True and Complete Secret of Long, Healthy Life,”というタイトルの錠のかけられた本が最後の出番となり、7000オランダギルダー(2002年にユーロに統合されるまでオランダの通貨。1オランダギルダー=0.59USドル 約4000USドル)で落札。皆の前で開いたところ,10単語を除いては全くの白紙だった、ということで、”Keep the head cool, the feet warm, the bowels open.”としか書いていなかったとのこと。
健康とは本当にシンプルなものだ,という話。

さて、この、”Keep the head cool, the feet warm, the bowels open.”という表現、これだけでは,物理的に「頭寒足熱」の意味ととっても良いと思われるが、(+腸を開く)、そうではないだろうと考えさせられるのがオールド・パーの逸話。(文頭の写真にいれたウイスキーの名前で有名なオールド・パーです)

Thomas Parr
http://www.westminster-abbey.org/our-history/people/thomas-parr
1483−1635(152歳!)
80歳で始めて結婚し、20年盲目で、なくなる年に王様にあう為に始めてロンドンへ連れ出されて数週間で他界。なんとあのウィリアム・ハーベイ(全身の血液循環を始めて詳細に記述)に検死され、「食事の変化と豊かなワインと町の空気の汚染が年老いたParrにはこたえたのだろう」といわれた.

A diet of green cheese, onions, coarse bread, buttermilk or mild ale (cider on special occasions) and no smoking kept Thomas healthy.His recipe for long life was reputed to be “Keep your head cool by temperance and your feet warm by exercise.Rise early, go soon to bed, and if you want to grow fat [prosperous] keep your eyes open and your mouth shut”.

ここに彼に長寿の秘訣を尋ねたら「頭は冷静に保ち、運動をして体を暖め、早起き、早寝をして、もしお金持ちになりたければよく目を見開いて、口は閉じておけ(観察を良くして,余計なことを言うな)」と言ったとのこと。

1918年の書籍にBoerhaaveが約250年前に存在,とありますから、1668年頃。Old Parrがなくなったのが1635年頃ですから、時代としてもそれほどずれておらず、152歳まで生きた(おそらく戸籍などもなく不正確とは思いますが)、Parrの話はオランダの名医Boerhaaveにも届いていたのでしょう.
「健」の原稿にも書きましたが、Old Parrが英語で言ったものがオランダ語で記載され鎖国中の日本へ入って来てという2度の翻訳過程で文字通りの翻訳だけが一人歩きしたのだろう(という推測)

一応,文献も検索したのですが、これがある意味さらに驚きを生むこととなりました。(パート2へ)

関連ページ
(part 2) Q&A「頭寒足熱」の医学的根拠を教えてください「健」2012年 1月号 Vol.40-10 p.13-14