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NHK総合 総合診療医 ドクターG「なんとなくおなかが痛い」9月6日(木)所感(ネタバレなし)

NHK総合 総合診療医 ドクターG「なんとなくおなかが痛い」9月6日(木)
http://www.nhk.or.jp/program/doctorg/

ごらんくださった皆様へ
多くの視聴者の方が今夜の番組を見て、このページにたどり着いたのではないかと思います。
なるべく、シンプルにメッセージをまとめておきたいと思います。言い訳のようなものですが。
ここでは,家庭医・総合医をジェネラリストと書かせていただきます。
(NHKさんとの約束で,書けないこともあり、意図的にぼかしている部分もある事をご了承ください)

基本的に、昨年出演取材いただいたこれが世界のスーパードクター14 TBS系 2011年3月22日(火)よる9:00からの時に書いたメッセージと大きく内容は変わりませんが、出来るだけ誤解を避けたいので改めて,手短にまとめておきたいと思います。

一般の皆様、患者様へ
昨日の記事(こちら)にも書かせていただきましたが、大切なことなので、再度書かせていただきます。

#テレビはあくまでテレビ。番組(エンターテイメント)としての目的が果たせるよう、正確さを無視する訳ではないですが、一般の方へのわかりやすさを最優先して作成してあります。
#われわれが日常的に出会う症例の中で、番組で取り上げられる事例のように時間がかかり,診断が紛糾する症例はごくわずかです。ニュース報道もそうですが、「日常的ではない/珍しい」だからこそ,話題になり、テレビになるのです。ほとんどが日常病、日常高頻度問題とかコモン・ディジーズ、コモン・プロブレムと呼ばれ、それらは若い研修医でも比較的短時間で正しい診断にたどり着きます。
#一方で,診断までに複数回の通院が必要だったり、数ヶ月、数年かかる場合もあり,また最終的に診断のつかない事例もあります。テレビのように数十分かければ診断がつくものばかりとは限りません。(ちなみにテレビの20分強のカンファレンスはその何倍もの時間のカンファレンスをもとに編集されています)。何件か医師,医療機関を回ってようやく診断にたどり着く事例もありますが、それは,別の医師にかかったからというより,時間がたって症状がそろって来たから、それまでの医師のところで「異常がなかった」検査から除外できる病気があるから,という理由のほうが多いと思います。基本的な診断のトレーニングを受けた医師であれば概ね丁寧に経過を追わせていただければ、診断にたどり着く事が多いです。数回でだめだからと別の医師に変わらずに,最初にかかった先生と根気よくつきあってみて下さい。
#我々ジェネラリストの仕事のなかで「病名をつける」事はほんの一部です。他の診断(患者さんの心理状態はどうか、経済状態はどうか、おかれた社会状態(家族や介護者,仕事など)はどうかといった評価)も同時に行っていますし、それよりなにより、病名はすぐに分かる事が多いが,治療が大変なことも多く(体重の減量、禁煙、禁酒、薬をしっかり飲んでいただくなど)、そこの部分で治療のタッグを組むところへの工夫が大半、また診断がわかっても現代の医療では治療のない病気もあり,そういった方にどうよりそうかも我々の大きな仕事です。
#自分がすごく優れているとは考えていません、たまたま様々なご縁で出演の機会を頂きましたが、自分よりもずっと優秀だけれど、地域の現場で声も上げず,誰にも取り上げられず,ただ黙々と地域の現場、患者さんの生活を守っているジェネラリストが日本中にいます(まだまだ足りていませんが)。どうか,あなたの身近にいるスーパー・ドクター、ドクターGに気づいて下さい。地道に丁寧に仕事をされている地味だけれど味のある先生がかならずいます。私はみなさんに日本中のそういった先生方の存在に気づいていただく、家庭医・総合医という専門分野の存在,仕事について知っていただくためのきっかけ、話題作りにすぎないと考えています。どうか、それぞれの地域でジェネラリストの必要性を近隣の医療機関に訴えていただけるとありがたいです(投書箱、ご意見箱があると思います)
#研修医の先生方が出来が悪い,と考えないで下さい。私は症例を出す側として答えを知っています。研修医の先生は当日の撮影まで症例の情報を一切与えられていません。カンファレンスもぶっつけ本番です。逆の立場だったら私もきっと悩み、答えにたどり着かないこともあると思います。そして,若い医師の育成にみなさんが協力をしてもらえないと、優れた医師は歳をとって行くばかりで,社会全体の不幸となります。医師免許をとってからの5年前後は,必ず指導医が裏で目を光らせていますので、1回分の受診/支払いで2人分の医師の知恵が借りられるお得な機会と考えていただくのがよいでしょう。

私への受診,相談について
#番組のテロップでも出していただきましたが、家庭医としての仕事は診断をつける事はほんの一部で、主たる仕事は特定の患者さん、その家族、その地域と長く関わる事で、その方々の生活を支える仕事です。そのためには,患者さんの生活の場と私の仕事場が近い事,かかりやすい事が前提条件です。また、先に書いたように、一回来ていただいてそこで診断がぴたりとわかる,というものではない事が多いです(占い師ではありません)。お話を聞いて,診察をして、検査をして、結果が出る頃に来ていただいて、見立てた薬を少し試していただいて、その効果を聞かせていただくためにまた来ていただいて、大きな検査は、病院へ紹介状を書いて、また結果を持って来てもらって、という事を初診からの数ヶ月こまめに来ていただいて,診断にたどり着く、またその中で自然と症状が改善するという例が大半です。遠方の方にはそれがとても負担になると思いますし,そこまでしてもらって来てもらう事は、私の望むところではありません。診断をつける事を得意としているジェネラリストは通常大きな病院/大学病院の総合診療科にいます.ぜひ,最寄りの大病院の総合診療科への相談がまだでしたら,まずそちらに相談されることをお進め致します。よろしくお願い致します。

研修医、医師、専門医の方々へ
#いろいろな批判はあると思います。(あの鑑別診断が挙がっていない,とか、医学用語の使い方が不正確とか、医学的事実と異なるとか)。地上波になって、対象は医療者ではなく一般の方が優先で,医学的な正確さを無視する訳ではないが、わかりやすさを第一に編集が行われています。またカンファレンスそのものはかなりの長時間行われ,きちんと頻度の低い疾患や難しい病名、立ち入った病態生理の議論などが行われています。我々も患者さんへの説明で、嘘は言わないにしても,わかりやすさを優先して、概ねあっていれば,厳密さに妥協する場合もあるでしょう。正確さを優先するあまり、わかりにくくて誰にも伝わらないよりはよいのではないでしょうか。そういう意味では真摯な番組作りをしている分、こちらのほうが、み◯も◯た、ためして◯ッテン などよりは、よっぽどまともだと思います。しかし、残念ながら,今回の撮影でも何カ所かどうしても伝えたかったのに諸事情により伝えられなかったことがあるのも事実です。
#問診よりも診察を先にすればすぐに診断がつく事例、検査しなければどうにもならないような事例、もあることは当然ですので,番組に出せる事例というのは限定されてきます。岩田健太郎先生も書かれています。
番組はエンターテイメントであるということを考慮せざるを得ません。
#人間力,という事を申しましたが,私が人間力があるという訳ではなく、そこを目指したい,一緒に目指しましょう,という意味です。人は,足りないからこそ必要性を主張する訳なので。
# 研修医を出しにするのはどうか,というご意見もあることは承知しています。そう思います。今回のお話を頂いてから、ずっとそこは,そうならないように制作側にお願いしてきました。NHKも、それは番組の望むところではない,という立場で,毎回細心の注意を払って制作をされています。
# ジェネラリスト,特に家庭医の仕事は診断学以外の部分が醍醐味だ,という点.これもかなりこだわって,お願いしましたが、当然違う番組になってしまうので、通らず。別でドクターFという番組を作ってもらうしかないかもしれません。

#タイミングよくJIMという雑誌の特集で今回の最終診断に関係するクリニカル・パールがいくつかありましたので抜粋しておきます。

JIM Vol.22 no.8 2012 -8  p.599
特集 ジェネラリストのためのクリニカル・パール
http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=34618

腹痛患者では◯◯を鑑別診断の2番目より後に挙げてはならない
’◯◯っぽくない’腹部所見というものはない

NHKについて
#とにかくびっくりするぐらい綿密な準備,取材、撮影でした。以前の民放では,放送前に最終的な映像を見せていただくことはなく、放映当日を迎えましたが、今回は数えきれないほどの打ち合わせ(対面,メール、電話)がありましたが,その細かい手続き、ノウハウについてはフォーマット権というのがあり,明かすことが出来ません。当日のカンファレンスだけは基本ぶっつけ本番でした。研修医の先生は当日まで誰がドクターGかは知らされていません。
ただ言えるのは,全てにおいて,私のok,了承なしに進んだものはないという事です。たった40分ちょっとの番組を作るのに、とてもたくさんの人と時間、資源がつぎ込まれている事が本当に認識できました。今回私の担当をして下さいましたプロデューサーの三宅大介さんには本当にたくさんのわがままを聞いていただきましたし,それをサポートして下さった制作会社homeroom、NHKの皆様には本当に感謝しています。よい勉強をさせていただきました。

感想
#やっぱり当事者になるのが一番勉強になるという事を再認識。私自身が準備の過程で最終診断の◯◯や、鑑別診断の一般的な症状や経過、診断の方法などについて、いい加減な事がいえないので,うろ覚えはないか,間違った認識はないかとその都度、文献にあたり確認し直す事を繰り返すことになりました。まさに、teaching is learning twice(教える事は二度学ぶ事である)を再確認できました。
#準備にずいぶん時間がかかるという事。ほんとうにたくさんの人や時間の努力でひとつの番組が支えられ,放送に至っている事。
#一般視聴者の存在を忘れないこと、普段のカンファレンスとはやり方が違うこと。地上波で視聴者の大半は非医療従事者であることから、準備の段階からそのことを制作側からかなり強調されました。はじめにも書いたのですが、正確さを無視する訳ではないのですが、わかりやすさ,伝わる事が重視される事を意識することを学びました。また、ガチンコカンファレンスで、つい白熱して英語や医学用語が出てしまうことがあり、それについては、止められて言い直しをさせられる,という事が何度かありました。

とても長くなりましたが、どうしても表面的にとらえられる番組の印象から誤解を受けてほしくない部分もあるので,その補完として書かせていただきました。

ドクターG (ドクタージェネラル)ご存じですか?

勤務する診療所で,一般の方へ向けて発行している通信の2012年8月号に書かせていただいた記事です。
K-ファミクリ通信 第40号(2012年8月発行)
4ページからです。
http://www.kameda.com/about/facilities/kfct/news.html#01

ジェネラリスト(家庭医・総合医)の事やその仕事について理解いただきたいので、そのままこちらに引用します。
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ドクターG (ドクタージェネラル)ご存じですか?

以前からNHKで放送されている番組なのですが,ご存じでしょうか?
Gはgeneral(ジェネラル=幅広い,一般的なという意味)のGで,特定の年齢や臓器に限定して診療を行う医師と対照的に,年齢,性別,臓器,体,心を限定することなく診療することを得意とする医師のことを英語でgeneralist(ジェネラリスト)と呼びます.会社でも特定の仕事だけをする人と,様々な仕事をする総合職や総務という仕事がありますね.彼らもジェネラリストです.日本では総合医などと呼ばれています.総合内科医,総合診療医,救急医もちろん我々家庭医もジェネラリストに含まれます.

このドクターGという番組は芸能人のゲストも参加するスタジオで,医師育成の現場で日常的に行われている症例カンファレンスを指導医と研修医が繰り広げます.医師が行うカンファレンスには様々な種類のものがありますが,この番組で行われているのは臨床推論と呼ばれる医師の能力を研修医に身につけてもらうためのものです.臨床推論とは,患者さんが受診されたときのお話しや診察,検査の結果から病気の診断にたどり着くまでの方法論のことで,未だにこの部分はコンピュータでは完全に真似できないとされています.番組では実際の患者さんの話に基づく再現ビデオから可能性のある病名(鑑別診断:かんべつしんだん)を研修医が挙げ,なぜそれらの病気を想定したのか,その病気だと説明できない部分はあるか等の問答を繰り返しながら研修医達が正しい診断にたどり着くように指導医が上手く助言をします.

この番組を見ていると,2種類の誤解が生まれるかもしれません.1)病気の診断は難しいものだ,ということ,2)ジェネラリストの仕事は診断が中心だということです.ところが現実は1)日常診療をする患者様のほとんどは,標準的な研修を受けた医師であれば診断は難しくありません.珍しい事例だからこそテレビになるのです.また,診断の名医と呼ばれる人たちも,通常はすでに患者様は何カ所もの医療機関にかかってからそこに来ますから,検査や試された薬が効かなかったことなどによって「xxの病気ではない」ということがすでに分かっていたり,最初の医療機関受診から時間が経っており,症状が進んでわかりやすくなっているといった,最初の医師にはなかった有利さがあります.「後医は名医(他の医師が診た後の医者はそもそも有利)」という言葉が我々の世界にはあります.2)日常の診療の大半は診断ではなく治療です.診断は糖尿病でどう治療するべきかも明らかなのですが,様々な理由で薬が飲めない,体重が減らない,運動ができない,たばこがやめられない,という方にいかにやる気になって頂き,治療の主人公になってもらうかといった問題,また,様々な障がいをもつかたのより良い人生をサポートするために,リハビリやケアマネージャー,学校や行政,もちろん患者間のご家族などの協力を得られるよう人事を尽くす,といったことの方が家庭医の仕事の診断をつけることよりもずっとと多く,重要です.

この番組は私自身は,いち医療人として勉強になるので,いつも楽しみながら見ておりますが,なぜ地上波で一般の方にも人気があるのかは今ひとつ理解ができません.どうやら,推理ドラマを見るような,また人体の神秘に触れたり,一見分かりにくい医者の頭の中をのぞき見するような面白さがあるからのようです.
ともあれ,我々ジェネラリストの仕事のほんのわずかな部分である,臨床推論という技術を通して,少しでも医師の仕事を一般の方に知って頂ける良い機会だと思っています.騙されたと思って一度ご覧になってみてはいかがでしょうか.

新シリーズはすでに始まっており,毎週木曜日22時からNHK総合で,7月19日の後はロンドンオリンピックを挟んで8月23日に放送再開予定のようです.

番組ホームページ http://www.nhk.or.jp/program/doctorg/