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ニューヨークコロンビア大学の家庭医療プログラムの閉鎖(とその取り下げ)

下記は、ほとんどはウェブからの情報をもとにまとめましたが、NAPCRGの学術集会会場で、某氏(L.G.)が発言している内容も取り込んで書いてあります。彼の発言からの部分は裏の担保を取っていませんのでそのつもりでお読みください。

すべての経緯は
Guest Editorial
Trial by Firings: Lessons in Organizing at NewYork-Presbyterian
http://www.aafp.org/news/opinion/20151019guested-nypfmresidency.html
に記されているが、時系列で下記に概要をまとめるので、時間的な経緯を意識して追って欲しい。

10/12/2015
Columbia University Medical Center, Center for Family Medicineのfacultyとレジデント合計30名(レジデントだけで30名か、全員で30名かははっきりしません)が突然召集され、「(2016年の年度末(6月)には)もう閉めるから、クビだ」と告げられたとのこと。
3年目のレジデントはプログラム終了の基準を満たすための継続外来は続けられるよう善処するが、保証はできない、と。それ以外のレジデントとfacultyは他で仕事を探しなさいと。
20年間で100人以上卒業生を輩出してきたプログラムであり、都会の貧困層をケアしてきたクリニックであり、また「なぜニューヨークで家庭医になるの?(一般的には米北東部が一番家庭医療が弱く、また研修は都市部ではないほうが良いと考えられている)」と皆に言われるにもかかわらず、あえてそういうところでそういう患者ケアをしたいと考える学生やレジデントが集まってくるプログラムであり、2015 U.S. News and World Report ではNew York-Presbyterian病院はニューヨーク州で1位、全米で7位とされる病院であり、国としては、2013年の調査では2020年には20,400 人のプラマリケア医が不足するという試算と、the Affordable Care Actのもとでプライマリケアを強化する方向に誘導があるという背景でのことだ。

このことはupper Manhattanでの労働者層からプライマリケアサービスを奪うことであり、彼らが別の主治医を探してさまよわなければならないことを意味する。

Columbia University Medical Centerの学生、指導医、経営陣によると透明性がなく、あまりにも突然の通告だったとのこと。
病院が経営難ということが理由ではなく、より裕福な地域を対象にした、利ざやの大きい事業 “high-margin subspecialty care(皮膚科のような利ざやの大きいサブスペシャリティーケア)”をするため。とのこと。(ちなみに彼らはNPOです)
「delivering high-quality primary care in the Manhattan/Washington Heights community was no longer a strategic priority for NYP(www.capitalnewyork.com) and that the hospital planned to expand its ambulatory clinics in wealthier areas of the state, such as Westchester,(careers.nyp.org) and focus its resources on high-margin subspecialty care.」

そのあとたった36時間でその決断は覆されることになります。
彼らは何をしたのか?

レジデントと指導医陣は一斉にSNSやショートメールでその話を拡散。
レジデントは指導医にtwitterのやり方を教えた。
そのニュースを知ったコロンビア大学の医学生は大規模の市民集会(townhall meeting)を企画(300人の医学生とあります)
http://columbiaspectator.com/news/2015/10/14/cumc-students-uncertain-after-school-reverses-decision-close-family-medicine-center

医学部長に、そこで説明をしてもらうよう要求。
その経緯で、共感したIntl. Business Timesの記者により情報はさらに拡散。
ニューヨーク市からホワイトハウスに至るまで政治家や官僚が状況についての説明を受け、家庭医療の重要性を一斉に擁護。(どうやら病院?医学部?幹部に直電がたくさんかかってきた模様)

そこで学長は、「閉じるという決定はは覆された。ただ、そもそも閉鎖の決断は病院の決定であって、大学がやったのではない。」
(ありがちな回答)ととにかく閉鎖の決定は撤回される。

「“The hospital made a decision and they reversed their decision. So as of today we’re back to where we were a few weeks ago with all programs continuing,” Goldman said. “You’ve got a copy of the hospital’s statement and it speaks for itself.”

Throughout the town hall, Goldman stressed that the initial decision to shutter the Center for Family Medicine was made by New-York Presbyterian, not the medical school.

“You didn’t see an announcement from us saying we’re closing,” Goldman said. “That didn’t come from us. Obviously we would have had to make some sort of accommodation—how we would have done that, I can’t in all honesty answer you.”」

一方で、学長は、もっとプライマリケア医が必要なのではないかと問われ、「米国の医療ではとても重要なことだし、うちの学生が家庭医療に進むのをやめさせようとしているのではない。しかし、我々の主たる目的は家庭医を育てることではない。それは州立の医学部がやるべきことだ」と答えている。

「At the town hall meeting, the dean was asked about the need for more primary care doctors. Tellingly, he said that although family medicine is “an important part of the American medical scene, and we don’t discourage our students going into FM, our primary goal is not to train family physicians, which is the goal that some state schools have.”」

この1日ちょっとの時間を通じて病院と医学部の管理部は、学生にとって、市にとって、国にとってプライマリケアがどれだけ意味のあるものなのかを知ることとなる。また、コミュニティーがともに一丸となって自分たちの声を届けることでどれだけの力があるのか思い出すこととなる。そして、この学術的組織にて家庭医療を尊敬される専門職として(respected profession)認められるには今以上にどれだけ戦わなくてはならないかを我々の全ては学んだ。

In those hours, the hospital and medical school administration learned how much primary care means to students, the city and the country. In those hours, we learned how much power we have as a community when we come together to make our voices heard. And in those hours, we all learned how much harder we will have to fight to make family medicine a respected profession at this academic institution.

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以下 時間的経緯のまとめ
10/12/2015 召集と閉鎖の通達
10/13/2015 10:40 AM
Intl. Business Timesのすっぱ抜きにより人々に知れ渡ることになる
http://www.ibtimes.com/new-york-presbyterian-hospital-close-family-medicine-center-2016-amid-national-push-2139327
同日 23:45 tweet

「Medical students, faculty and administrators at Columbia University Medical Center, which is affiliated with the hospital, described the decision as a surprise that lacked any kind of transparency. Closing the Center for Family Medicine would not only cut vital services for patients in the impoverished New York City community of Washington Heights, but it would also abruptly force residents there to reapply for new residency programs and faculty to teach or practice elsewhere.」

10/14/2015
医学生300名を集める集会のアナウンス

10/14/2015 1:48 (16時の集会の段階よりずっと前に撤回されていたようです)
NewYork-Presbyterian病院の公式twetter/blogにて閉鎖の撤回が宣言。
STATEMENT: Family medicine residency program at The Herman “Denny” Farrell Jr. Community Health Ctr will stay open

その他参考記事
http://www.businessinsider.com/america-has-a-shortage-of-primary-care-doctors-2015-10

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教訓

# コミュニティー、患者、医学生などとしっかり関係性と信頼が得られていれば、そして政策の側にプライマリケアの重要性が理解されていれば、わずか数日で極めて大きな決断を覆すことができる。
# それぞれのジェネラリスト部門は、閉鎖の危機に追い込まれた時に、自分たちのサポーターとなり、ロビー活動や署名活動のために声を上げてくれる味方(患者と地域、医学生)を担保し増やす活動を行っているか?
# プライマリケア部門の貢献については下記補足の後半参照。日本でも早々にその貢献についての論文/研究をやっていかなければ、一方的なダウンサイジングの通達への対抗手段に弱い。
# 「インパクト」という視点で語るならば、このエピソードほど行動を起こすことによるインパクトの大きさをよく表している事例はない。NAPCRG 2015でのWS 28 How Can Research Impact be Measured ?というWSのなかで最初に出した重鎮L.G.が「インパクトの大きさの事例」としてこの話を出したことによって知ることとなる。

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補足:家庭医療プログラムは過去にも何度も閉鎖が行われています。

そして、そのインパクト、その傾向や理由なども分析されています。
Gonzalezらの論文では、経済的、政治的、組織内リーダーシップの変化が(プログラム責任者の認識では)最も多い、主たる閉鎖の理由としてあげられていた。とされています。
この論文では、プログラム責任者が挙げる、閉鎖になるかしれない危険信号のリスト(Table2)、とプログラムの立場を強くするためのアドバイス(table3)が極めて参考になると思います。

Gonzalez et al. A study of closure of family practice residency programs. Fam Med. 2003 Nov-Dec;35(10):706-10.
https://www.stfm.org/fmhub/fm2003/November/English706.pdf
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14603401

Examining the Impact of Closing Family Medicine Residency Programs
http://www.graham-center.org/content/dam/rgc/documents/publications-reports/presentations/examining-impact-closing.pdf

収入を生まないからとprimary care部門を閉鎖し、cardiovascular centerにしたところ、さらに収入が減りまた、元に戻したという話も中西部の病院であったと思います。(出展探しきれず)
これは、プライマリケア部門は直接収入を生まないかもしれないが、そこからの紹介によって、二次、三次医療で収入が生まれているという事実が見えていなかったということ。そこで生まれる収入もプライマリケアの貢献とカウントすると、十分収益部門であるという研究が古いですがあります。(掲載誌がacademic medicineというのも興味深いです)

Patrick Fahey et al. Analysis of Downstream Revenue to an
Academic Medical Center from a Primary Care
Network
. Acad Med. 2006; 81:702–707
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=PMID%3A+16868422

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医師として身近な人の診療を行う事(とくに地元でやる家庭医):dual relationship(二重の関係)

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先日の夏期セミナーにて「生まれ育った地元で家庭医として働くこと」というシンポジウムをかとうファミリークリニックの加藤貴紀先生と一緒に企画させていただきました。

そこでちょっと紹介した参考文献。
2012年に改訂された米国内科学会の倫理マニュアル第6版(ネットで全文が読めます)

American College of Physicians Ethics Manual: Sixth Edition
Lois Snyder, JD, for the American College of Physicians Ethics, Professionalism, and Human Rights Committee
Ann Intern Med. 2012;156(1_Part_2):73-104. doi:10.7326

http://annals.org/article.aspx?articleid=1033289 (pdf)

当然,全ての医師が果たすべき倫理的責務について32ページにわたって包括的に,かつ簡潔に書かれているのですが、上記セッションに特に関係してくると思われる部分について抜き出して紹介しました。

その部分とは,ズバリ

Providing Medical Care to One’s Self; Persons With Whom the Physician has a Prior, Nonprofessional Relationship; and VIPs
(自分自身、医師が,医師患者関係以外の関係が以前からある患者、VIPへの医療の提供)

Gifts From Patients
(患者からの贈り物)

です。

ちょっとわかりにくいですが、一つ目は,医師患者関係が成立する前から別の関係(家族、友人、知人、雇用関係)等がある人を患者として診療する場合ということです。

身近な人(お世話になった近所の人、友人,そして家族)の役に立ちたいという想いで医師や医療従事者を目指す人も多いはずですが,特に家庭医を目指す人たちはその動機で医師,また家庭医を目指す人が多いように思います(私見)。

また、地方、僻地,離島へ行けば行くほど、その町や村の首長(町長や村長)と呼ばれる人、社長さんなどVIPを診療する機会も多くなります。そして、患者さんからの様々な心付け(農作物等)を頂く機会も多いはずです。

さて、どのように書かれているのでしょうか?
ざっくりと意訳、かつ許可は取っていないので、気になる方は、原文に当たって下さい。

自分自身、医師が,医師患者関係以外の関係が以前からある患者、VIPへの医療の提供
http://www.acponline.org/running_practice/ethics/manual/manual6th.htm#self-vips
もしくはpdfの P. 80-81

他の選択肢が存在しないような、緊急の状況を除いて,医師は自分自身のケアを行うべきではない。 医師は自分自身に対して、適切に問診し,診察し,指導を行なうことはできない。それらの行為なくしては、いかなる検査、投薬,その他の治療も、不適切なものとなる。

家族、友人、知人、同僚、雇用者などを含む、医師患者関係以外の関係が以前から存在している患者に対しては、もともと存在している感情的、社会的関係が、今後発生する専門家としての医師患者関係を複雑化させる。

医師が、以前から社会的、感情的な関係を有する人物から,診療を頼まれた際はまず他の選択肢を考慮しなければならない。例えば、アドバイスをする立場,医療通訳、受診の際にした方がよい質問の提示、専門的な用語や概念の説明役、受診への同伴、患者擁護の助けとしての役割りを担う等。別の手段としては自分のコネや知識を利用して他の医師を紹介することもできる。

医師は、さまざまな理由により、医師かつ家族や医師かつ友人といった二重の関係(dual relationship)に入るべきではない。患者は医師からベストでないケアを受ける危険性があるかもしれない。問題は、臨床的客観性や、不適切な病歴聴取、不適切な身体診察、過剰な検査、不適切な処方、繊細な問題についての不完全なカウンセリング、適切な診療録記載のもれ等を含む。患者のニードが医師の専門性の領域を外れるかもしれない。医師が感情的に親密であるという事で患者の側や医師の側,もしくは双方にとって困難な状況に陥るかもしれない。一方で、患者は、医師の友人、医師の家族に診療を受けることによって、多大な利益を経験する場合もあるだろう。この利益は医師の側にも起こりえる。医師へのアクセス、医師の詳細への心配り、ケアのレベルへのこだわりなどがより良いものになり得るからだ。

医師かつ家族、医師かつ友人という二重の関係の複雑性を考えれば、医師は、そういったん懸念と、その他の取り得る代替え案とを天秤にかけ、そういう患者のケアをする前に、同僚に相談を求めるべきである。もし、診療を行うという選択をするならば、他の一般的な患者に行なうのと同じ包括的な丁寧さで、注意深い診療録の記載を伴って実施するべきである。医師が、診療を行う際はいつ何時でも、自分の専門性の範囲内でのみ行なうべきである。診療録は他の患者と同様に記録され,保存されなければならない。

VIPの診療はまた別の難しさがある。医師は、関連のある病歴や身体診察でさえ、繊細な部分を省略しがちである(性交渉歴や飲酒量など。訳者注)という傾向を避けなければならない。名声や社会的評判のある人だからという理由で、患者に医学的に適応のない医療を提供することになってはならない。他の全ての患者と同様に患者のプライバシーと守秘義務は守られなければならない(守秘義務の項参照)。最後に、VIPの社会的な位置づけのせいで、その医師が他の患者に負う責任に悪影響が及ぶことになってはならない。(VIPの診療のために大幅に他の患者を待たせる等 訳者注)

患者からの贈り物 
http://www.acponline.org/running_practice/ethics/manual/manual6th.htm#gifts
もしくはpdfの p.82

患者からの贈り物を受け取るかどうか決める際に、医師は,その贈り物の本質、その患者にとってのその贈り物の価値、それを受け取る事や断る事によって医師患者関係にどのような意味や結果をもたらしえるか、患者の贈り物に込めたおそらくの意図や期待などを考慮しなければならない。
感謝のしるしとして,というような小さな贈り物は倫理的には問題とはならない。何らかの贈り物を受け取ることによる診療の優遇は問題であり,プロフェッショナリズムを損なう。また、患者診療において客観的である事を妨害する。

さていかがだったでしょうか? 基本的に可能な限り避けるべきと書いてあります。

身近な人たちの役に立ちたくて医師になったのに、家庭医になろうとしているのに、という人たちはどうすればよいのでしょう?
このマニュアルは医師患者関係の「前に」別の関係がある患者としていますが、問題となっているのはdual relationship(二重の関係)の問題です。だったら,最初に医師患者関係があって,その後別の関係(友人、知人、雇用者等)になった場合も同じ問題(問診や診察をはしょる、過剰な診療になるなど)が起きるのではないでしょうか?

実際に、プライマリケアの実践をしている地域で生活していると、二重の関係は日常的に生じます。ママ友、パパ友、趣味のフットサルの仲間、飲み友達、行きつけのお店の従業員、普段別の立場から健康を守る為に連携を行なう行政や保健所のみなさん、患者さんのケアの連携において連絡を取り合うケアマネージャーさん,そういった方がやはり「気心の知れた先生に診て欲しい」「どんな先生かよくわかってて信頼できるから先生に診て欲しい」とこちらから求めずとも、向こうから医師患者関係という二つ目の関係を求めてきます。

そこで,「いや,倫理的には避けるよういわれているので」と断ることができるでしょうか? 身近な人の役に立ちたい,という想いで医師,家庭医になった人ならなおさらです。

ちょっと現実的ではない。と思いますが、それでも,マニュアルに書かなければいけないほど、日常的だったり、注意すべき事だったりするのでしょう。

皆様はどう思われますでしょうか? (患者の立場としても)