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集団健診での診察

地域自治体での集団健診の問診、診察医の業務を行うことがあると思います。
短時間で多数の方に対応しなければならないのと、その制約の中でどこまでやるか、という問題について、あえてばっさりと書いています。もちろん、別の立場からの異論はあると思いますが。

エビデンス的には医師の診察はほとんど不要です。
それでも、日本の制度上、医師の診察をやらざるを得ない中で、少しでも無駄を省いて、かつ意味のある仕事ができるために、いくつかポイントを挙げておきます(包括的ではないと思いますが)

1.健診(スクリーニング)と精査(w/u)を区別する
1-a スクリーニングは症状のない人において疾患を見つけるためのもの。症状(便が黒い、胸が苦しいなど)がある時点でそれは精査ー>検診の場で根掘り葉掘り聞かずに近医受診を勧める(3-e)
2.厳密なエビデンスに基づくならば集団健診において医師の診察(身体診察)は不要
2-a. スクリーニングが正当化されるのは喫煙歴、血圧の測定、大腸がん、子宮がん、乳がん程度(後記文献参照。集団健診よりもがん検診のほうがよっぽど意義あり。ただし、がん検診を推奨する年齢の上限については議論の余地あり)
3.それでも医師が診察をしなければならないとするとその意義としては
3-a. 血圧の異常があり通院歴のない人に受診を進める
3-b. 喫煙歴のある人に禁煙を勧める
3-c. 採血も含めた総合判定でどうせ本人に通知が行くから3-a.bは不要なのでは、という意見もあるでしょう。しかし、ただ紙の通知が来るだけなのと、医師から直接受診を進められるのとは重みが違います。医療従事者が直接特定個人に向けて発する言葉の重みを過小評価してはいけません。健診の異常は言われていたが症状が出るまで・何年もほおっている人のどれだけ多いことか!
3-d. がん検診を勧める(集団健診とがん検診の申し込み、実施時期は別なので、集団検診を受けていてもがん検診は受けていない人も多い。どっちかだけ受けるならがん検診のほうが意義が大きい)
3-e. 近隣のかかりつけ医、家庭医を確保するようお勧めする(集団健診での医師の問診、診察には限界がある。かかりつけ医(usual source of care)をもつ人はそうでない人よりも健康度が高いことは多くのエビデンスがある)
3-f. 高齢者の受診が多いと思うので、個人的に集団健診で気をつけているのは、動作(歩いたり座ったり、服を脱いだり)に時間のかかる人(最近の転倒歴を聞いてください)。話のつじつまの合わない人。独居の人。(総じていわゆる虚弱高齢者)ー>ぜひ近隣のかかりつけ医、家庭医確保をお勧めしてください。(虚弱高齢者のスクリーニングについてはエビデンスはまだ萌芽レベルですが)

エビデンスがない=意義がないとはいいません。また個別事例的に進行がんが見つかったり、重症心不全が見つかったり、ということがあると思いますが、それがすなわち、「その状態を発見するために症状のないすべての人に問診や診察をする価値がある」とはならないことに注意。

以下参考

科学的根拠に基づくがん検診のページ
http://canscreen.ncc.go.jp/

健康診査の健診項目(科学的根拠についての厚生労働省研究班のレビュー)
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0051/1/0051_G0000137_0006.html
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0051/1/0051_G0000137_GL.html

新聞記事(参考)
http://www.pure-renaissance.com/product/cardguard/07.pdf

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USPSTF update 3題(内頚動脈狭窄,非合法ドラッグ,方法論)

1)Screening for Carotid Artery Stenosis
http://www.ahrq.gov/clinic/uspstf/uspsacas.htm
The U.S. Preventive Services Task Force (USPSTF) recommends against screening for asymptomatic carotid artery stenosis (CAS) in the general adult population. (This is a grade “D” recommendation)
害が多いのでやるな,ということ.ここでいうscreeningとはドップラー超音波法のことだが,必然的に,ルーチンで頸動脈の聴診を行うことにも拡大適応されると考える.(聞いて音がしたら,次は超音波なので)

米国の医師は定期的な検診で頸動脈の聴診を項目に入れていることが多いが,この診療は変わるか?
あくまで上記推奨はドップラー超音波法についてであり,頸動脈の聴診は私見.

私は以前からやっていない.当時の指導医が優秀だったからしないように昔から言っていた.

2)
Screening for Illicit Drug Use
http://www.ahrq.gov/clinic/uspstf/uspsdrug.htm
The USPSTF concludes that the current evidence is insufficient to assess the balance of benefits and harms of screening adolescents, adults, and pregnant women for illicit drug use. (This is a grade “I” statement)

どちらでもいいので,自分の信念に基づいて決めればいいよ.と.これが一番助かるといえば助かる.inner city,都会ではやってもよいのではないだろうか.

3)Update on Methods
Estimating Certainty and Magnitude of Net Benefit

http://www.ahrq.gov/clinic/uspstf07/methods/benefit.htm
方法論のupdate

ABCDIのrecommendationをどのように決定するかについての方法論についての記載.table 1.がわかりやすい.
これまでこれは公開されていなかったのではないだろうか?自分が気づかなかっただけかもしれないが.

Certainty of Net Benefit (どのぐらい確かかつまりevidenceの妥当性)
Magnitude of Net Benefit (効果の大きさ)
の2つの組み合わせできまる.

Certainty of Net Benefit :high
Magnitude of Net Benefit :substantial

の場合にのみA recommendation

Certainty of Net Benefit :low
については,magnitudeがどうであれI recommendation

日本に適応する場合の問題点

Certainty of Net Benefit は基本的に世界共通だが,日本人が含まれているかどうかにこだわると全く利用できなくなる.

Magnitude of Net Benefitについてはその疾患の有病率,スクリーニングにかかるコスト,治療の手術や薬剤の成功率や効果が影響するので,より日本の状況に当てはまらない可能性が高い.日本での研究やpolicy makingが切実に望まれる.

このupdateは上記のcarotid artery stenosisについてのrecommendationの結論を出す過程を例に説明されている

考慮する質問は3つ

1) What evidence does the Task Force consider to estimate net benefit?
2) How does the Task Force estimate the certainty of net benefit?
3) How does the Task Force estimate the magnitude of net benefit?

詳細は3つめのリンクから読んでください.総論屋の私としては,これが一番おもしろかった.
理由は
1)どのようにUSPSTFのrecommendationが作られるかその過程と決定基準が明確に示されていること.(これで,他の国でも同じようにやりたい人は,その通りにやればできる)
2)検査や治療のコストはrecommendationの作成に考慮されている様子がないこと(考慮しないとは書いてないが,考慮するとも書いていない)
発表された費用対効果の論文なども存在するが,outcomeやコストの設定などまだ論文ごとのmethodologyの差異や過程の不透明さのため,2001年より独自に導入したoutcomes table(頸動脈の例はここ)を使用して最終的にnet benefitを判定していると書いてあり,このようにコストのことが含まれていない.これはこれまで自分はuspstfはコストを含めた判断をしていると考えていたのだが,間違いであった(もちろん,おおざっぱには無意識的に考慮していると思うが)
この点で,日本の状況に適用する際に考慮しなければならない変数(もっとも国による差異の大きい)が減るので,外的妥当性が多少担保されうるということ.
3)指導の立場にある人は必読.

気づき
recommendation grade決定の過程を説明するために例として中年男性の腹部大動脈瘤のスクリーニングをあげていたが,喫煙者はスクリーニングをする500人に一人死亡が一人減らせるためB,非喫煙者は1800人に一人なのでCここの線引きは総合的判断になると思われる.1800人一人レベルは公衆衛生的には積極的推奨にならないということ.(一人の家庭医がカバーする人口が1500-2000ぐらいなので中年の非喫煙者全員スクリーニングして一人救えるかどうか,といったところ)

もう一つ,USPSTFのtask forceメンバーは名誉職であること.おそらく実費程度.いわゆる厚労省の研究班などとおなじで,やはり選ばれる,ということが,その分野での能力を評価されると言うことなのだから,これ以上の非金銭的報酬はないだろう.

日本でこのような仕事ができる人間になれないかと思っているのだが…