先日のエントリー
家庭医を進路選択すると内科よりも2倍プライマリケアにとどまる
*家庭医を選択した93.6%はプライマリケアの実践をしているが、内科を選択した学生でプライマリケアの診療にとどまるのは48.1%、
に続いて、類似論文の紹介
概要
2003ー2014年の20の医学部卒業生17509人のうちプライマリケア関連のレジデンシーで研修を開始した卒業生のうち、レジデンシー修了直後どのような診療現場に進むかの記述及び予測性能に関する研究
P: 任意の20医学部の卒業生17509人
E: intent to practice primary care method(今回提唱される新たな指標)(table 1の左から二つ目)
C: residency match primary care method(table 1の一番左)
O: レジデンシー終了後の仕事内容がプライマリケアかどうか(table 1の右半分)これは、卒業生の名前を逐一、google. yahoo.linkedin,卒業生名簿などで調べて、どういう仕事をしているか確認(その仕事場が実際のプライマリケアかどうかの判断はtable1 の右半分の左右を比較)
C: residency match primary care method(table 1の一番左)は従来のいわゆる「プライマリケア系」の進路に進んだと考えられる人たち(家庭医療、内科、小児科の全て)
E: intent to practice primary care method(table 1の左から二つ目)は新たに提唱されている「本当にプライマリケア をやるつもりがある人だけが進む」と考えられる進路
この2つの違いは後者は前者からinternal medicine (categorical) ,pediatrics(categorical)が外されているということです。
補足すると内科、小児科のレジデンシーには(categorical)というのとprimaryというのがあるということです(table 1ではmedicine-primary, pediatrics-primaryと表現)
categoricalはサブスペシャルに進む選択肢が残されていてその可能性も想定した人が進む進路、primaryはその選択肢が残されていない最初からプライマリケアを想定した人が進む進路ということです。つまりcategoricalに進む人はその時点でプライマリケアに進むことの医師が少なくとも明確ではない(intentが不明)というグループとして新たな指標からは外されているということです。
(実際のところは、どちらのプログラムを修了しても、内科や小児科の専門医としては同じ資格で、希望すればサブスペシャリティーに進むことは可能ですが、最初からprimary care trackに進むと外来や訪問診療、老人ホームなどの経験やローテが多くなり、場合によっては外来women’s healthの研修も含まれます。ただしprimary care track自体用意されているところが極めて少ないです。
(言い換えると、categoricalはそれらの経験が最小限ということです。以下参考 Cooper University Health Care Primary Care Track
アウトカムについてはtable1の右側を見てください、どういう仕事が実際のプライマリケア に分類され、どういうのがそうではないかという定義です。
全てのサブスペシャルティ、救急(emergency及びurgentケア)、hospitalist, hospice/palliativeケアはプライマリケアではないと定義されています
結果はtable2です。
真ん中の列そのレジデンシーに進んだ人のうち、修了後に実際のプライマリケア に進んだ人の割合。
ここでは高い順に並べます
pediatrics-primary 93.5%
family medicine 92.8%
medicine-pediatrics 61.1%
pediatrics(categorical) 44.6~51.6%
medicine-family medicine 50.0%
medicine(categorical) 20.6~30.0%
medicine-primary 29.5%
余談ですが、medicine-pediatricsは内科と小児科の、medicine-family medicineは内科と家庭医療の両方の専門医が取得できるいわゆるダブルボードプログラムです。 それぞれ単独の研修だと3年ですが、medicine-pediatrics、medicine-family medicineはそれぞれ4年でダブルボードが取得できます。もちろん、別々の学会が認定をしているので、それぞれの専門医取得、及び資格維持には両方のrequirementを別々に満たす必要があります。
先日のエントリー
家庭医を進路選択すると内科よりも2倍プライマリケアにとどまる
*家庭医を選択した93.6%はプライマリケアの実践をしているが、内科を選択した学生でプライマリケアの診療にとどまるのは48.1%、
とほぼ同じ結果です。
今回の結果からはプライマリケアに進む可能性の高さからと3つのグループがあり
1. 大半がプライマリケア領域の診療をする :pediatrics-primary 93.5%とfamily medicine 92.8%、
2. 約半分がプライマリケアに残る:medicine-pediatrics 61.1%、pediatrics(categorical) 44.6~51.6%、medicine-family medicine 50.0%
3.
内科単独の場合、たとえprimary care trackに進んだとしても ほぼ差はなく、プラリマリケアに残るのは3割程度:medicine(categorical) 20.6~30.0% 、medicine-primary 29.5%
ということです。
table 4の右側の列は、実際に修了後プライマリケアに進んだ人3901名の内訳です
家庭医が47.8% 1866人
内科(categorical とprimaryを合わせて)24.4% 951人
小児科(categorical とprimaryを合わせて) 22.4% 873人
ダブルボード (内科小児科/内科家庭医療)5.4% 210人
table 4では
米国のプライマリケア 労働力(workforce)の半分は家庭医
また、ダブルボードは極めて少数
ということが分かります。
実はこの研究の背景は
それぞれの医学部がアウトカム指標の一つとして「当医学部は今年xxx人中xxx人(x%)の卒業生がプライマリケア系のレジデンシーに進んだため、当医学部はプライマリケア にそれだけの多大なる貢献をした」という声明をよく出していることがありその根拠となる数字が
C: residency match primary care method(table 1の一番左)(内科、小児科、家庭医に進んだ人全て)
を基にしているのですが、それが全部プライマリケアに従事するというのは言い過ぎじゃないの?というところから始まっています。
ここでは引用しませんが、論文のtable3の右端から3つ目と2つ目の列が
C: residency match primary care method(table 1の一番左)と
新たに提唱された
E: intent to practice primary care method(table 1の左から二つ目)
のそれぞれに進んだ人のうち実際に修了後プライマリケアに従事する人の割合(予測性能)
を示しており、
それぞれ、54.1%、76.5%と、internal medicine (categorical) ,pediatrics(categorical)に進んだ人たちを全て外した分母で考える方が、プライマリケア に貢献する人の割合をより正確に予測するのではないかという結論です。
あくまで米国の研究ですから、日本では分かりませんが、感覚的には割としっくりくるような気がします。
日本でわかっていないこと
内科専門医、小児科専門医取得者のうちどのぐらいがプライマリケアを担っているか
そもそもプライマリケア を担っているというのはどのように定義されるか
結局primary care workforceを語る上で、日本でもこういう研究をしないといろいろ物が言えないと思うのですよね。。(次のエントリーに続きます)