カテゴリー別アーカイブ: 研究

誰が本当にプライマリケア を担うのか?(内科や小児科は担っているのか?)

先日のエントリー

家庭医を進路選択すると内科よりも2倍プライマリケアにとどまる

*家庭医を選択した93.6%はプライマリケアの実践をしているが、内科を選択した学生でプライマリケアの診療にとどまるのは48.1%、

に続いて、類似論文の紹介


— ORIGINAL ARTICLES —
Mark Deutchman, MD et al. Contributions of US Medical Schools to Primary Care (2003-2014): Determining and Predicting Who Really Goes Into Primary Care. Fam Med. 2020;52(7):483-490. DOI: 10.22454/FamMed.2020.785068

概要
2003ー2014年の20の医学部卒業生17509人のうちプライマリケア関連のレジデンシーで研修を開始した卒業生のうち、レジデンシー修了直後どのような診療現場に進むかの記述及び予測性能に関する研究

P: 任意の20医学部の卒業生17509人
E: intent to practice primary care method(今回提唱される新たな指標)(table 1の左から二つ目)
C: residency match primary care method(table 1の一番左)
O: レジデンシー終了後の仕事内容がプライマリケアかどうか(table 1の右半分)これは、卒業生の名前を逐一、google. yahoo.linkedin,卒業生名簿などで調べて、どういう仕事をしているか確認(その仕事場が実際のプライマリケアかどうかの判断はtable1 の右半分の左右を比較)

C: residency match primary care method(table 1の一番左)は従来のいわゆる「プライマリケア系」の進路に進んだと考えられる人たち(家庭医療、内科、小児科の全て)
E: intent to practice primary care method(table 1の左から二つ目)は新たに提唱されている「本当にプライマリケア をやるつもりがある人だけが進む」と考えられる進路
この2つの違いは後者は前者からinternal medicine (categorical) ,pediatrics(categorical)が外されているということです。

補足すると内科、小児科のレジデンシーには(categorical)というのとprimaryというのがあるということです(table 1ではmedicine-primary, pediatrics-primaryと表現)
categoricalはサブスペシャルに進む選択肢が残されていてその可能性も想定した人が進む進路、primaryはその選択肢が残されていない最初からプライマリケアを想定した人が進む進路ということです。つまりcategoricalに進む人はその時点でプライマリケアに進むことの医師が少なくとも明確ではない(intentが不明)というグループとして新たな指標からは外されているということです。
(実際のところは、どちらのプログラムを修了しても、内科や小児科の専門医としては同じ資格で、希望すればサブスペシャリティーに進むことは可能ですが、最初からprimary care trackに進むと外来や訪問診療、老人ホームなどの経験やローテが多くなり、場合によっては外来women’s healthの研修も含まれます。ただしprimary care track自体用意されているところが極めて少ないです。
(言い換えると、categoricalはそれらの経験が最小限ということです。以下参考 Cooper University Health Care Primary Care Track

アウトカムについてはtable1の右側を見てください、どういう仕事が実際のプライマリケア に分類され、どういうのがそうではないかという定義です。

全てのサブスペシャルティ、救急(emergency及びurgentケア)、hospitalist, hospice/palliativeケアはプライマリケアではないと定義されています

結果はtable2です。

真ん中の列そのレジデンシーに進んだ人のうち、修了後に実際のプライマリケア に進んだ人の割合。
ここでは高い順に並べます

pediatrics-primary 93.5%
family medicine 92.8%
medicine-pediatrics 61.1%
pediatrics(categorical) 44.6~51.6%
medicine-family medicine 50.0%
medicine(categorical) 20.6~30.0%
medicine-primary 29.5%

余談ですが、medicine-pediatricsは内科と小児科の、medicine-family medicineは内科と家庭医療の両方の専門医が取得できるいわゆるダブルボードプログラムです。 それぞれ単独の研修だと3年ですが、medicine-pediatrics、medicine-family medicineはそれぞれ4年でダブルボードが取得できます。もちろん、別々の学会が認定をしているので、それぞれの専門医取得、及び資格維持には両方のrequirementを別々に満たす必要があります。

先日のエントリー

家庭医を進路選択すると内科よりも2倍プライマリケアにとどまる

*家庭医を選択した93.6%はプライマリケアの実践をしているが、内科を選択した学生でプライマリケアの診療にとどまるのは48.1%、

とほぼ同じ結果です。

今回の結果からはプライマリケアに進む可能性の高さからと3つのグループがあり

1. 大半がプライマリケア領域の診療をする :pediatrics-primary 93.5%とfamily medicine 92.8%、
2. 約半分がプライマリケアに残る:medicine-pediatrics 61.1%、pediatrics(categorical) 44.6~51.6%、medicine-family medicine 50.0%
3.

内科単独の場合、たとえprimary care trackに進んだとしても ほぼ差はなく、プラリマリケアに残るのは3割程度:medicine(categorical) 20.6~30.0% 、medicine-primary 29.5%

ということです。

table 4の右側の列は、実際に修了後プライマリケアに進んだ人3901名の内訳です
家庭医が47.8% 1866人
内科(categorical とprimaryを合わせて)24.4% 951人
小児科(categorical とprimaryを合わせて) 22.4% 873人
ダブルボード (内科小児科/内科家庭医療)5.4% 210人

table 4では

米国のプライマリケア 労働力(workforce)の半分は家庭医
また、ダブルボードは極めて少数

ということが分かります。

実はこの研究の背景は
それぞれの医学部がアウトカム指標の一つとして「当医学部は今年xxx人中xxx人(x%)の卒業生がプライマリケア系のレジデンシーに進んだため、当医学部はプライマリケア にそれだけの多大なる貢献をした」という声明をよく出していることがありその根拠となる数字が

C: residency match primary care method(table 1の一番左)(内科、小児科、家庭医に進んだ人全て)

を基にしているのですが、それが全部プライマリケアに従事するというのは言い過ぎじゃないの?というところから始まっています。

ここでは引用しませんが、論文のtable3の右端から3つ目と2つ目の列が
C: residency match primary care method(table 1の一番左)と
新たに提唱された
E: intent to practice primary care method(table 1の左から二つ目)
のそれぞれに進んだ人のうち実際に修了後プライマリケアに従事する人の割合(予測性能)
を示しており、
それぞれ、54.1%、76.5%と、internal medicine (categorical) ,pediatrics(categorical)に進んだ人たちを全て外した分母で考える方が、プライマリケア に貢献する人の割合をより正確に予測するのではないかという結論です。

あくまで米国の研究ですから、日本では分かりませんが、感覚的には割としっくりくるような気がします。

日本でわかっていないこと
内科専門医、小児科専門医取得者のうちどのぐらいがプライマリケアを担っているか
そもそもプライマリケア を担っているというのはどのように定義されるか

結局primary care workforceを語る上で、日本でもこういう研究をしないといろいろ物が言えないと思うのですよね。。(次のエントリーに続きます)

スクリーニングとしてのCAC スコア(冠動脈石灰化スコア)(medicina 2020年 5月号 追補)

medicina(メディチーナ) 2020年 5月号
特集 教えて!  健診/検診“ホントのところ”~エビデンスを知り,何を伝えるか
医学書院 2020/5/18
約200ページ 2860円

の中で、文字数の関係でどうしても割愛せざるをえず、お蔵入りとなった部分の原稿についてここで公開。
本文の追補として。()内の人名は文末の引用文献の筆頭著者

重要なメッセージとしては、CACスコアは冠動脈疾患の存在の可能性を見積もるものではなく、基本的にCVDリスクのより正確な見積もりを行う、つまりstatinやアスピリンの適応についての見積もりの正確度を上げるためのツールである、ということで、間違った解釈をされないよう。(冠動脈疾患の診断ができるかのように宣伝している自費ドックの医療機関もありますね。。。)

現時点ではUSPSTFでもI声明(推奨なし)です。
Cardiovascular Disease: Risk Assessment With Nontraditional Risk Factors(July 10, 2018)

ーー以下追補ーーーーー

 ただし、CAC スコアは基本的にCVDリスクのより正確な見積もりを行うためのツールであり、冠動脈疾患や狭窄の存在を診断するためのものではない。そのため、ほとんどの研究が既存の臨床項目によるリスク予測ツールにCACスコアを追加することによる予測性能の改善を見ており(Lin)、冠動脈疾患や狭窄の存在に対する診断性能(感度、特異度など)について精度の高い研究は少ない。
 白人、黒人、ヒスパニック、中国人を含む多民族グループのコホートにおけるCACスコアの予測性能の研究ではCACスコアが0の場合ほぼ確実に10年のイベントリスクが5%未満、100以上の場合は一貫して7.5%以上だったこと(Budoff)や、従来の臨床項目に基づくCVDリスク評価によってstatinが推奨されたグループの半分はCACスコアの追加によってstatinの適応とならない低リスク群に再分類されこと(Nasir)、を踏まえて米国心臓病学会(ACC)および米国心臓協会(AHA)らの推奨はstatinの適応を決める際にborderline risk群の一部とintermediate risk群で正確なリスクの見積もりが困難な場合に「のみ」CACスコアによるリスク予測の追加を検討する(クラスIIa)となっており、それらのグループでCACスコアが0のグループは喫煙者、糖尿病、家族歴の強い者以外はstatinの使用を控えて良い、100以上は開始を推奨、1−99では開始が望ましい(特に55歳以上)とされている(Grundy)。

図はGrundyのfigure2に追記したもの

 また、すでにstatinを内服している患者においてはCACスコアのそもそもの測定目的であるスタチン投与をするかどうかの決定が既になされていること、またstatinがCACスコアそのものの値を増加させる可能性もあることから(Lee)、CACスコア測定の意義はないとされている(Grundy)
 日本においては臨床項目のみから予測した冠動脈狭窄の確率が60%未満と見積もられた者のうちCACスコアの追加によって60%以上の確率と再分類された者が一定数存在し、予測性能の向上が示唆されているが(性能の改善は男性>女性)(Nakao)、本研究は冠動脈疾患の存在を疑われている50−74歳のコホートを対象とした研究であり、一般成人のスクリーニングには適用できない。
 まとめると、CACスコアは一般成人への冠動脈疾患の有無をスクリーニングするツールとしては現時点で不適切であり、statinが開始されていない患者でstatinの適応を決めるにあたり、臨床項目のみで明らかなstatin不要なグループと明らかに必要なグループ以外の集団において、より正確なリスクの見積もりを行うためのツールとして捉える必要がある。ただし前述の通り10-year atherosclerotic cardiovascular disease(ASCVD)riskツールを日本人に用いた場合過剰評価となる可能性があり、日本人においてどのようなリスク集団がCACスコアの追加利益が得られるかについては今後の研究が待たれるところである。

Lin JS et al. Nontraditional Risk Factors in Cardiovascular Disease Risk Assessment: A Systematic Evidence Report for the U.S. Preventive Services Task Force. Evidence Synthesis, No.166. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2018 Jul.

Burdoff MJ et al. Ten-year Association of Coronary Artery Calcium With Atherosclerotic Cardiovascular Disease (ASCVD) Events: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). Eur Heart J. 2018 Jul 1;39(25):2401-2408.

Nasir K. et al. Implications of Coronary Artery Calcium Testing Among Statin Candidates According to American College of Cardiology/American Heart Association Cholesterol Management Guidelines: MESA (Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis). J Am Coll Cardiol. 2015 Oct 13;66(15):1657-68

Grundy SM. et al. 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Blood Cholesterol: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice. 2019;139:e1082–e1143

Lee SE. et al. Effects of Statins on Coronary Atherosclerotic Plaques: The PARADIGM Study. JACC: Cardiovascular Imaging. Volume 11,Issue 10, October 2018, Pages 1475-1484

Nakao YM, et al. Sex differences in impact of coronary artery calcification to predict coronary artery disease. Heart 2018;0:1–7.