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スクリーニングとしてのCAC スコア(冠動脈石灰化スコア)(medicina 2020年 5月号 追補)

medicina(メディチーナ) 2020年 5月号
特集 教えて!  健診/検診“ホントのところ”~エビデンスを知り,何を伝えるか
医学書院 2020/5/18
約200ページ 2860円

の中で、文字数の関係でどうしても割愛せざるをえず、お蔵入りとなった部分の原稿についてここで公開。
本文の追補として。()内の人名は文末の引用文献の筆頭著者

重要なメッセージとしては、CACスコアは冠動脈疾患の存在の可能性を見積もるものではなく、基本的にCVDリスクのより正確な見積もりを行う、つまりstatinやアスピリンの適応についての見積もりの正確度を上げるためのツールである、ということで、間違った解釈をされないよう。(冠動脈疾患の診断ができるかのように宣伝している自費ドックの医療機関もありますね。。。)

現時点ではUSPSTFでもI声明(推奨なし)です。
Cardiovascular Disease: Risk Assessment With Nontraditional Risk Factors(July 10, 2018)

ーー以下追補ーーーーー

 ただし、CAC スコアは基本的にCVDリスクのより正確な見積もりを行うためのツールであり、冠動脈疾患や狭窄の存在を診断するためのものではない。そのため、ほとんどの研究が既存の臨床項目によるリスク予測ツールにCACスコアを追加することによる予測性能の改善を見ており(Lin)、冠動脈疾患や狭窄の存在に対する診断性能(感度、特異度など)について精度の高い研究は少ない。
 白人、黒人、ヒスパニック、中国人を含む多民族グループのコホートにおけるCACスコアの予測性能の研究ではCACスコアが0の場合ほぼ確実に10年のイベントリスクが5%未満、100以上の場合は一貫して7.5%以上だったこと(Budoff)や、従来の臨床項目に基づくCVDリスク評価によってstatinが推奨されたグループの半分はCACスコアの追加によってstatinの適応とならない低リスク群に再分類されこと(Nasir)、を踏まえて米国心臓病学会(ACC)および米国心臓協会(AHA)らの推奨はstatinの適応を決める際にborderline risk群の一部とintermediate risk群で正確なリスクの見積もりが困難な場合に「のみ」CACスコアによるリスク予測の追加を検討する(クラスIIa)となっており、それらのグループでCACスコアが0のグループは喫煙者、糖尿病、家族歴の強い者以外はstatinの使用を控えて良い、100以上は開始を推奨、1−99では開始が望ましい(特に55歳以上)とされている(Grundy)。

図はGrundyのfigure2に追記したもの

 また、すでにstatinを内服している患者においてはCACスコアのそもそもの測定目的であるスタチン投与をするかどうかの決定が既になされていること、またstatinがCACスコアそのものの値を増加させる可能性もあることから(Lee)、CACスコア測定の意義はないとされている(Grundy)
 日本においては臨床項目のみから予測した冠動脈狭窄の確率が60%未満と見積もられた者のうちCACスコアの追加によって60%以上の確率と再分類された者が一定数存在し、予測性能の向上が示唆されているが(性能の改善は男性>女性)(Nakao)、本研究は冠動脈疾患の存在を疑われている50−74歳のコホートを対象とした研究であり、一般成人のスクリーニングには適用できない。
 まとめると、CACスコアは一般成人への冠動脈疾患の有無をスクリーニングするツールとしては現時点で不適切であり、statinが開始されていない患者でstatinの適応を決めるにあたり、臨床項目のみで明らかなstatin不要なグループと明らかに必要なグループ以外の集団において、より正確なリスクの見積もりを行うためのツールとして捉える必要がある。ただし前述の通り10-year atherosclerotic cardiovascular disease(ASCVD)riskツールを日本人に用いた場合過剰評価となる可能性があり、日本人においてどのようなリスク集団がCACスコアの追加利益が得られるかについては今後の研究が待たれるところである。

Lin JS et al. Nontraditional Risk Factors in Cardiovascular Disease Risk Assessment: A Systematic Evidence Report for the U.S. Preventive Services Task Force. Evidence Synthesis, No.166. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2018 Jul.

Burdoff MJ et al. Ten-year Association of Coronary Artery Calcium With Atherosclerotic Cardiovascular Disease (ASCVD) Events: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). Eur Heart J. 2018 Jul 1;39(25):2401-2408.

Nasir K. et al. Implications of Coronary Artery Calcium Testing Among Statin Candidates According to American College of Cardiology/American Heart Association Cholesterol Management Guidelines: MESA (Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis). J Am Coll Cardiol. 2015 Oct 13;66(15):1657-68

Grundy SM. et al. 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Blood Cholesterol: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice. 2019;139:e1082–e1143

Lee SE. et al. Effects of Statins on Coronary Atherosclerotic Plaques: The PARADIGM Study. JACC: Cardiovascular Imaging. Volume 11,Issue 10, October 2018, Pages 1475-1484

Nakao YM, et al. Sex differences in impact of coronary artery calcification to predict coronary artery disease. Heart 2018;0:1–7.

肺がんスクリーニング推奨の改訂 (USPSTF 2013)

東京大学医学部附属病院 呼吸器外科 http://ctstokyo.umin.ne.jp/thoracic/ts_3/ より

あくまで素案の段階です!
正式な発表の時点で内容の変更がありえることに注意。

パブコメ段階なので8月末には一度アクセスできなくなりますが必読。
これが正式になるとかなり診療を変えなければなりません

英文、日本語斜体部分は抜粋。

肺がんのスクリーニング条件付きでB 推奨
USPSTF: Draft Recommendation
http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/draftrec.htm

AAFPの記事)USPSTF Gets Behind Screening for Lung Cancer
Annual Low-Dose CT Scans Now Recommended for High-Risk Adults
http://www.aafp.org/news-now/health-of-the-public/20130729uspstflungcancer.html?sf15522629=1

個人的な診療の変更
#喫煙者の全て、最近の禁煙者の全てにこの推奨が定義するハイリスク 群かどうかの評価を行いその旨を記載
#彼ら全員に年1回のLDCTを実施する訳ではなく、ただしCTを実施する閾値を低く持つ。(保険診療でないので)
#一部除外対象者は注意
ぐらいです。(こういう人たちはドックのオプションを積極的に奨めてよいと思います)

以下抜粋
もともとI statementだったんですね。Dだと思い違いをしていました。

Summary of Recommendation and Evidence
The U.S. Preventive Services Task Force (USPSTF) recommends annual screening for lung cancer with low-dose computed tomography (LDCT) in persons at high risk for lung cancer based on age and smoking history.

推奨)ハイリスクグループに限り低線量CTによるスクリーニングを年1回推奨。

This is a Grade B recommendation.
B推奨の意味
The USPSTF recommends the service. There is high certainty that the net benefit is moderate or there is moderate certainty that the net benefit is moderate to substantial.
利益と害の差が中等度であることに強い確信がある or
利益と害の差が中途度から圧倒的であることに 中ぐらいの確信がある
のどちらかで

今回は中等度、中ぐらい
The USPSTF concludes with moderate certainty that annual screening for lung cancer with LDCT is of moderate net benefit in asymptomatic persons at high risk for lung cancer based on age, total cumulative exposure to tobacco smoke, and years since quitting.
年齢と、総タバコ暴露、禁煙後年数によってハイリスクとされた無症状者においてのLDCTによるスクリーニングの利益と害の差が中等度であることに中ぐらいの確信がある

肺がんのリスク因子は年齢とタバコ暴露蓄積量
目的は早期の非小細胞がん early-stage non-small cell lung cancer (NSCLC)
小細胞がんは対象としない

ハイリスクグループの定義
55歳から79歳の喫煙歴 1日1箱30年以上(30 pack-year or more)ブリンクマン指数では600以上。 かつ、禁煙後15年以上経過した人は除く
ただし、併存疾患が多いとか、対象年齢の上限近くの人(つまりよ御延長があまり期待されない人)は注意
見つかっても根治手術を受ける気のない人、NLST(下記)の観察期間(8年)いないに他の疾患で天命を迎えると思われる人はNLSTの研究対象から外されたことに注意

ここは日本の推奨と違うところ やるならLDCT! 単純+喀痰は検査としては不十分
Chest x-ray and sputum cytology have not been found to have adequate sensitivity or specificity as screening tests

今回の推奨の改訂に最も大きな影響を与えた研究
National Lung Screening Trial (NLST) ←知っているとかっこい!
この研究
5万人以上のこれまで最大のRCT。
対象患者、登録時点で55−74歳、最低30 pack-yearsの喫煙歴、禁煙後15年未満
(それ以外の研究では効果が証明されていないので中等度の確信)

Table 1は目を通して下さい。
様々なリスクグループの利益と害のバランスをシュミレーションしています。
対象患者を増やすほど不必要なX線暴露、偽陽性、不必要な侵襲的手技(害)が増える
なので、上記の条件で対象を絞ると、利益と害のバランスが許容できるバランスとなる。(害がなくなる訳ではない)
この条件では検診で見つかるがんの9.5% to 11.9%が過剰診断(診断しなくても、他の理由で死亡に至るために、診断の必要がなかったがん)となる。(米国の有病率での前提)
特に若年者では偽陽性率が上がるので、がんではないことを確認するための摘出術などの害も増える(その他放射線暴露、不安など)

The highlighted program—screening current or former smokers ages 55 to 79 years with a 30 pack-year or more smoking history and discontinuing screening (or not starting) after 15 years of smoking abstinence—which is the strategy that most closely resembles NLST patients, offers a reasonable balance of benefits and harms.

その他の前提条件としてはNLSTstudyの実施されたのが、
大規模な3次病院で、LDCTの読影の診断制度が高く、異常所見者の受診徹底(フォローアッププロトコール)、侵襲的手技(生検、根治術など)の実施基準が厳格で、明確という条件なので、それよりも緩い条件のシステムでの診療は、害が増えるかもしれない。

以下参考

診療報酬 現時点)
あくまで検診は保険を使わずに。
CT単純CT検査
撮影料 900点 (16列以上64列未満のマルチスライス型の機器による場合)
画像診断料 450点
電子画像管理加算 120点
造影剤
点数 合計 1470点
3割負担の窓口支払額 4,410円

参考)
東京都がん検診センター
http://www.tokyo-cdc.jp/kenshin/teisenryou-ct/index.html
低線量CT肺がん検診

 現在、がん部位別死亡数の中で肺がんは第1位ですが、人口の高齢化が続くかぎり、肺がん罹患率や肺がん死亡率はさらに上昇すると予想されています。わが国では、2006年に厚生労働省研究班の調査報告を参考にして作成された「がん検診ガイドライン」において、『胸部X線検査と高危険群に対する喀痰細胞診併用による肺がん検診』については「死亡率減少効果を示す相応な証拠がある」とされ、対策型検診として推奨されています。しかしながら、『低線量CTによる肺がん検診』については「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分である」とされ、対策型検診として行うことは推奨されていません。そのため、全国の多くの自治体において『胸部X線検査と高危険群に対する喀痰細胞診併用による肺がん検診』が住民向けに行われているのが現状です。
2010年11月、アメリカ国立がん研究所が、2002年から開始した研究(National Lung Screening Test, NLST)の結果を受けて、『低線量CTによる肺がん検診』が肺がん死亡率の減少に効果があることを発表しました。さらに、2011年10月、同研究所は、2002年から開始した別の研究(The Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial:PLCOがんスクリーニング試験)の追跡調査の結果を解析し、年1回の定期的な『胸部X線検査』を受けても肺がん死亡率の低下が認められなかったと発表しました。
これらの発表は、わが国の「がん検診」に関する施策に大きな影響を及ぼすことが予想され、将来的に「がん検診ガイドライン」の見直しが行われ、自治体が住民向けに行う対策型検診として『低線量CTによる肺がん検診』が推奨される可能性が出てきました。とはいえ、実際に行われるようになるまでには、まだかなりの時間を要するものと考えられますので、当センターでは、個人で受けていただける『低線量CT肺がん検診』を開始することにいたしました。(2012年4月より開始)

参考)
低線量CT検診で発見された肺癌の25%は過剰診断?
イタリアで行われた後ろ向き研究の結果
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/etc/201212/528327.html
ハイリスク者を対象とした低線量CT(LDCT)による肺癌スクリーニングにおいて、検出される腫瘍の約25%が、体積倍加速度が遅く、結果として過剰診断となる可能性があることが、イタリアEuropean Institute of Oncology のGiulia Veronesi氏らによる後ろ向き研究で示された。論文は、Annals of Intern Medicine誌2012年12月4日号に掲載された。