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>村上春樹 1Q84

>村上春樹 同郷の人ということで親近感はあってもノルウェイの森以来、文体があわずにずっと敬遠しています。
今話題の1Q84、もちろんまだ読んでいないのですが、読売新聞でインタービューがあり、非常に興味深い込めとんとがあり、最近の私の考えと響き合うところがありましたので、引用します。

読売新聞2009年6月16日 インタビュー (上)

より

原理主義の問題にもかかわる。世界中がカオス化する中で、シンプルな原理主義は確実に力を増している。こんな複雑な状況にあって、自分の頭で物を考えるのはエネルギーが要るから、たいていの人は出来合いの即席言語を借りて自分で考えた気になり、単純化されたぶん、どうしても原理主義に結びつきやすくなる。スナック菓子同様、すぐエネルギーになるが体に良いとはいえない。自力で精神性を高める作業が難しい時代だ。

中略

ーーーー受賞スピーチ「壁と卵」で「個人の魂の尊厳を浮かび上がらせ、そこに光を当てるため」小説を書くと発言された。

作家の役割とは、原理主義やある種の神話性に対抗する物語を立ち上げていくことだと考えている。「物語」は残る。それがよい物語であり、しかる心の中に落ち着けば。例えば「壁と卵」の話をいくら感動的と言われても、そういう生のメッセージはいずれ消費され力は低下するだろう。しかし物語というのは丸ごと人の心に入る。即効性はないが時間に耐え、時と共に育つ可能性さえある、インターネットで「意見」があふれ返っている時代だからこそ、「物語」はよけいに力を持たなくてはならない。
テーゼやメッセージが表現しづらい魂の部分をわかりやすく言語化してすぐに心に入り込むものならば、小説家は表現しづらいものの、外周を言葉でしっかり固めて作品を作り、丸ごとを読む人に引き渡す。そんな違いがあるだろう。読んでいるうちに読者が、作品の中に小説家が言葉でくるんでいる真実を発見してくれれば、こんなにうれしいことはない。大事なのは売れる数じゃない。届き方だと思う。

引用ここまで

どうやら1Q84は、これからの時代ますます「物語」が必要になる。その主翼を担うのが作家だという主張に基づいた、「記憶に残る物語」を強く意識した作品のようですが、この「物語」とはナラティヴ(narrative)、もしくはストーリーのことです。そしてその重要性は家庭医療の世界ではずっと前から言われてますが、それ以外の分野でずいぶんと言われるようになってきています。

最近読んだ、
「健康によい」とはどういうことか―ナラエビ医学講座
で、再度evidenceとnarrativeの統合をどのようにとらえるかについて考える機会を持つことができました。2−3時間で読めますが、非常に頭をすっきりとさせてくれるものでした。

著者はナラティヴ3年エビ8年かかると言っています。僕はエビよりもナラティヴにずっと時間がかかっています。
著者の立場はNBMとEBMは補完、並立するものではなく、ナラティヴがEBMを包含するという考えです。これで行くと非常にうまく行く気がします。

そしてナラティヴは家庭医療の基本です。そのことは最近読んだMcWhinneyに非常にパワフルなナラティヴによって記されていました。
mapとterritoryの話。また追って紹介できることと思います。

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村上 春樹
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早食い,腹一杯食いは肥満と関係あるか?

日本ではよく言われますね.それは本当か?そんなところから臨床研究は始まります.
以下は,そんな日本人ならではの研究です.(海外では既に研究があるようです)

Maruyama K et al. The joint impact on being overweight of self reported behaviours of eating quickly and eating until full: cross sectional survey.
BMJ. 2008 Oct 21;337:
Comment in: BMJ. 2008;337:a1926.

全文はこちら(pdf)

critical appraisalは何となくしかやっていません.(まあ,良さそうです)

対象:日本の法律で対象となる心血管リスク調査に参加した4140名の成人(30-69才)
過去1ヶ月の食習慣についてのアンケート 
除外:心血管疾患のある人,4000kcal以上や,500kcal未満の食事の人
肥満を BMI25以上と定義

質問の仕方
お腹一杯まで食べるかどうか :はい・いいえ
食べるスピード: とてもゆっくり,ゆっくり,ふつう,はやい,とてもはやい  の5段階
両方とも既に評価された(validated)質問紙を使用 (本人の自己申告のスピードは,友達による評価と相関するそうです)
スピードのとても速い,早いを1つのグループに(早食いグループ),残り3つを1つのグループに(荘でないグループ)
早食いかそうでないか,腹一杯食べるかそうでないかで2×2の4種類の集団に分けて分析

結果
回答率 88%
以下 男女の順で

男性
全体の平均のBMI 25
平均カロリー摂取 2236
喫煙率 47.4%

女性
全体の平均のBMI 22.8
平均カロリー摂取 1773
喫煙率 10.0%

肥満の有病率    33.8% 21.8%
腹一杯まで食べる人 50.9% 58.4% (女性の方が多い!)
早食い       45.6% 36.3%

腹一杯食べることの肥満へのリスク 2.00(95%CI 1.53 to 0.62)   1.92 (1.53 to 2.40)
早く食べることの肥満へのリスク  1.84 (1.42 to 2.38)      2.09(1.69 to 2.59)

どちらの習慣もない人たちに比べて,両方の習慣(早食い+腹一杯)のひとの肥満であるリスク
                 3.13 (2.20 to 4.45)     3.21 (2.41 to 4.29)

早食い+腹一杯グループがもっとも平均身長,体重,BMI,摂取カロリーが多かった
両方の習慣が存在する場合に加算的ではなく,それ以上のリスク増加.

コメント:あくまで相関(association)を示した論文なので,そういう食習慣の人が太るのか,太るとそういう食習慣になるかは不明.ただ,おおざっぱに片方の食習慣で2倍,両方で3倍というのは患者さんには説明しやすい.

以下abstract

Published 21 October 2008, doi:10.1136/bmj.a2002
Cite this as: BMJ 2008;337:a2002

Research

The joint impact on being overweight of self reported behaviours of eating quickly and eating until full: cross sectional survey

Koutatsu Maruyama, graduate student1,2, Shinichi Sato, director2,3, Tetsuya Ohira, associate professor1,2, Kenji Maeda, chief physician2, Hiroyuki Noda, research fellow1,4, Yoshimi Kubota, graduate student1,2, Setsuko Nishimura, dietitian2, Akihiko Kitamura, director2, Masahiko Kiyama, director2, Takeo Okada, director2, Hironori Imano, chief physician2, Masakazu Nakamura, director2, Yoshinori Ishikawa, deputy president2, Michinori Kurokawa, dietitian5, Satoshi Sasaki, professor6, Hiroyasu Iso, professor1
1 Department of Social and Environmental Medicine, Graduate School of Medicine, Osaka University, Yamadaoka, 2-2 Suita-shi, Osaka, Japan 565-0871, 2 Osaka Medical Center for Health Science and Promotion, Osaka, Japan, 3 Chiba Prefectural Institute of Public Health, Chiba-City, Japan, 4 Harvard Center for Population and Development Studies, Harvard University, MA, USA, 5 Division of Health and Welfare, Osaka Prefecture, Japan, 6 Department of Social and Preventive Epidemiology, School of Public Health, University of Tokyo, Japan
Correspondence to: H Iso fvgh5640@mb.infoweb.ne.jp

Objective: To examine whether eating until full or eating quickly or combinations of these eating behaviours are associated with being overweight.

Design and participants: Cross sectional survey.

Setting: Two communities in Japan.

Participants: 3287 adults (1122 men, 2165 women) aged 30-69 who participated in surveys on cardiovascular risk from 2003 to 2006.

Main outcome measures: Body mass index (overweight 25.0) and the dietary habits of eating until full (lifestyle questionnaire) and speed of eating (validated brief self administered questionnaire).

Results: 571 (50.9%) men and 1265 (58.4%) women self reported eating until full, and 523 (45.6%) men and 785 (36.3%) women self reported eating quickly. For both sexes the highest age adjusted mean values for height, weight, body mass index, and total energy intake were in the eating until full and eating quickly group compared with the not eating until full and not eating quickly group. The multivariable adjusted odds ratio of being overweight for eating until full was 2.00 (95% confidence interval 1.53 to 2.62) for men and 1.92 (1.53 to 2.40) for women and for eating quickly was 1.84 (1.42 to 2.38) for men and 2.09 (1.69 to 2.59) for women. The multivariable odds ratio of being overweight with both eating behaviours compared with neither was 3.13 (2.20 to 4.45) for men and 3.21 (2.41 to 4.29) for women.

Conclusion: Eating until full and eating quickly are associated with being overweight in Japanese men and women, and these eating behaviours combined may have a substantial impact on being overweight.

© 2008 BMJ Publishing Group Ltd.