無関心期≠前熟考期??:ProchaskaのTTM (transtheoretical model:トランスセオレティカルモデル/行動変容のステージ)に関する6つの誤解

ここまでやるなら総説として学術誌に投稿したら?という意見もありますが、出版の日の目を見るまでの期間とそれでどのぐらいインパクトがあるか,と考えたときにすぐに世の中に伝えられる、検索できる、自由に広がっていくという事実の方に価値をおいたほうがよいと判断しています。(私のアカデミックキャリアにとっての価値よりも、多くの人に早く伝わる事の方が重要です)
当然peer reviewはなされてないので、皆様自身で学術的価値や整合性があるかは判断ください。

トランスセオレティカルモデル,と書くとピンと来ない人も行動変容のステージもしくは準備期、実行期、維持期等と書くとピンとくるだろうか? 家庭医療専門医試験でも必ず取り上げられる?と噂の、行動変容(簡単に言うと上手に働きかけて禁煙や運動習慣をつけてもらう事)について有料のセミナーにおいて多数の受講者の前で25分で話すということで、本格的に自分でまとめました。
自分で話すことについては他者のわかりやすいまとめだけではなく、ちゃんと原典を読まないといけないな,と再認識した次第です。
最低限、1997年のProchaskaによるまとめはジェネラリストとしては(特に指導医の皆様)は読んでいただきたいと思います。(出典後述)

TTMの概略そのものについてはこちらにまとめを挙げていますので、参照下さい(基本は先述の1997年のまとめからです)
http://ja.scribd.com/doc/235416654

以下、多くの人が知らなかったと思われる驚きの事実たち! (行動変容のプロセスぐらいまでは知っている人がいるかも知れません)

A.  行動変容のステージモデルとは呼ばない?
行動変容のステージはトランスセオレティカルモデル(以下TTM)の一部でしかなかった。TTMは、1)行動変容のステージ 2)行動変容のプロセス 3)意思決定のバランス 4)自己効力感 の4つからなるモデル。3)、4)については他者のものを借用して統合している。一応、それまでの300以上の心理療法と行動変化の理論を比較分析した中からそれらを統合する目的で開発したので、trans – theoretical (汎理論的モデル、多理論統合モデルなどと訳される)とされる。(フロイトやスキナー、ロジャース等も含まれているとのこと)
なので、Prochaskaの著作を全部確認した訳ではないが、おそらく本人は「行動変容のステージモデル」と、TTMの要素一つを取り上げて「モデル」と表現したことはないはず。(stages of change)としか表記していませんので、行動変容のステージと表記するのが適切かと。

B.  再発というステージはない?
Prochaskaらが、自分達の過去の論文で,あたかも「再発」というステージがあるかのような誤解を与える記載をしてしまった。再発はステージではなく、現在の行動変容のステージから一つ前以上のステージへ退行する事である。と明記しています。(1997年版)

C.  維持期の次にステージがあった?
前述の通り「再発」ではありません。terminationと呼ばれるステージです。これも1997年の論文で本人達が記載しています(それまでは未出)。直訳だと終末期、終了期、終結期等となるのだと思いますが、停滞期や確立期と訳す試みがあるようです。しかしまだ、広いコンセンサスはないようなので、そのままにしておきます。
定義は「その習慣を再び始める誘惑がゼロで、健康的行動をとる自己効力感が100%存在する。その行動を変化させて最低5年間程度継続している状態」「どれほど落ち込んでも,ストレスがかかっても,不安でも、コーピングの手段として以前の不健康行動へは戻らない。そもそもそんな行動はしてなかった人のような振る舞いをする段階。ここに到達する人は20%未満といわれる」とのことです。

D. いろいろなバージョンがある?
これはなかなか難しいところですが、初出はおそらく1982年です(出典後述)。その直前の1979年にその元となった、多くの理論の比較分析を行なった書籍が出版されています。(scribdの出典を参照)
1992年のペーパーと比較して1997年の物ではterminationステージが追加になっており,変容プロセスの一つであるreinforce managementがcontingency managementと(報酬を使う方が変化が生じやすいとした上で)呼び名が変わっています。

最近第3版でのバージョンアップによって大幅に要素の変更と改訂をおこなった StewartらのPCCMと同様、理論も,その後の新しい研究や理論にも影響を受け,変わっていくのでしょう。

E. 線形(linear)モデルかスパイラルモデルか?
1992年の論文では螺旋型の図が初めてfig1として記されており、ステージの変化は一方向性に,段階的に起きるとされていたが、再発は例外というよりむしろルール(日常的に起きる)と考えた方がよい。とSpiral pattern of changeという小見出しの項に書かれています。一方1997年の論文には一切スパイラルパターンについての記述は見られません。

最後が最も衝撃の事実かもしれません。長くなりますが、大事なところです。

F. 無関心期≠前熟考期、関心期≠熟考期 ?

以下の図を見て下さい。出典(http://www.research12.jp/sien/docs/2010-281-PDF.pdf スライド10枚目)

www_research12_jp_sien_docs_2010-281-PDF_pdf

precontemplation、contemplationにどういう日本語訳を当てるか,という問題ではないように思いませんか?(というより、こうやって区別されている図を探すのさえ一苦労で,ほとんどは交換可能/ほぼ同義として使用されています。)

いろいろ出典をたどっていくと実は上記の図も不正確です!(注意)

では出典の旅へ!
1)前場康介 、井上和臣 、竹中晃二. 20 代学生喫煙者の禁煙行動における 意思決定バランスの検討 - 変容ステージによる喫煙の恩恵・損失イメージの主観的定量評価の適用 -日本禁煙学会雑誌 第 5 巻第 5 号 2010 年(平成 22 年)10 月 15 日 p 128-135
http://www.nosmoke55.jp/gakkaisi/201010/10_05_05_1015.pdf
の中に、

Nakamura et al.は日本の喫煙者が前熟考期に該当する者が多いことを考慮し 、前熟考期 を「無関心期」と「前熟考期」へ二分する手続きをと っている。

という記載があります。
この時点で議論の対象者が喫煙者に限定されている事に注意です。次はそのNakamura の論文。ちなみにこの中村さんはProchaskaの書籍の翻訳者でもあります。

2)Nakamura M, Masui S, Oshima A, et al.: Effects of stage-matched repeated individual counseling on smoking cessation: a randomized controlled trial for the high-risk strategy by lifestyle modification (HISLIM)study. Environ Health Prev Med 2004; 9: 152-160.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2723571/pdf/12199_2008_Article_BF02898094.pdf

fig5.にステージの一つと考えられるimmotiveという言葉が出てきます。

本文を読むと
the immotive stage (not interested in quitting smoking and not thinking about quitting in the next 6 months)
the precontemplation stage (interested in quitting smoking but not thinking about quitting in the next 6 months)
6ヶ月以内に禁煙をするつもりのない人たち(前熟考期)を2グループ:禁煙に関心のない人達(immotive)と6ヶ月以内に禁煙をするつもりはないが興味はある人たちprecontemplationに分けています。

つまり、
「無関心期」はimmotive stageの訳でした!

ですから、先に挙げた図の無関心期と関心期に分けるやり方は中村の意図したものとは異なり、「関心期」という分類は存在しません。(contemplationを関心期と訳し直さない限り)中村の提唱したのはimmotive, precontemplation, contemplation (以下同様)です。

これも喫煙者での議論。
中村の論文をの孫引き、さらに孫引きをするとオリジナルが中村らではないことが分かります。
中村らの論文で引用されていたのはDijkstraらの2本です。

3)Dijkstra, A., Bakker, M., & De Vries, H. (1997). Subtypes within a sample of precontemplating smokers: A preliminary extention of the stages of change. Addictive Behaviors, 22, 327– 337.
Dijkstra A, Roijackers J, Vries HD. Smokers in four stages of readiness to change. Addict. Behav. 1998; 20: 339–350.

熟考期の中にいる集団は性質の違う複数のグループがいるのではないか。という仮説の元、5年以内に禁煙を考えている狭義の熟考者(redefined precontemplators)とそれ以外(無関心者:immotives)に分けたら、禁煙のメリットに対する本人の評価がだいぶ違うという主張を調査のもと1997年の論文で行ない、1998年の論文で4群への分類が14ヶ月先の喫煙行動も予測できるという検証を行なっています。

要旨:喫煙者をimmotives, precontemplators, contemplators, and preparersと4つのグループに分類する。4集団は喫煙本数や喫煙年数、ニコチン依存度には差がないが、禁煙のメリットや自己効力感に差がある(つまり未来の禁煙行動の予測や成功率に差がある)ので、分類する事でより戦略的な介入ができるのではないか

さらに調べたところ、古くから喫煙者に関しては熟考期はさらに細かく幾つかのグループ/ステージに分けられるのではないか,という仮説は結構言われており、Prochaska自身も実はimmotivesという言葉を1983年の研究で使用しています TTMの初出が1982年ですから、まだ理論形成に試行錯誤していたのでしょうか。ちなみにその後、本人の論文ではimmotiveという言葉は出てこないようです。

Prochaska JO, DiClemente CC. Stages and processes of self-change of smoking: toward an integrative model of change. J Consult Clin Psychol. 1983 Jun;51(3):390-5.

F項のまとめ
*前熟考期=無関心期ではない。前熟考期(precontemplation)が無関心期(immotive)と狭義の前熟考期に分けられている。ただしこれは喫煙者の行動変容に関してのみ議論されているようである。分ける意義は喫煙のメリットや自己効力感に差があり,介入の手法や将来の禁煙行動、成功の可能性に差がある可能性がある。
*関心期がcontemplationの翻訳で熟考期と交換可能、同義に使用されていなければ、関心期は存在しない。

余談:ステージ理論をさらに細かくしたThe Freeman/Dolan Modelというのも提唱されていたりします。
Dolan, M. J. (2004). Stages of Change. In A. Freeman (Ed.), Encyclopedia of cognitive behavior therapy. New York: Kluwer Academic/Plenum.
http://counselingoutfitters.com/vistas/vistas06/vistas06.28.pdf (table 1)

まとめ
役不足、や確信犯、煮詰まる、的を得る などの世代によってその言葉を使用する際の意味が異なったり、そもそもの意味と現在の使用方法が異なる等の言語の誤用と同じで、間違っていても広く周知されている事を「運用上の正論/事実(デファクト)」として受け入れていくか、ちゃんと定義通りにやりましょう、とするかは正解はなく、難しいところです。また、ProchaskaらやStwartらも定義や細かい部分を時代や新たな知見を元に変更している事も事実です。
ただし、もともとどういう風に意図されていたか、変遷しているならなぜ変わって来ているのか,その理由は何か,という事は知っておいた方がよいかもしれません。(まあ学者としても指導医としてもこういううんちくが語れるとカッコいいよね)

結論:
日常的に引用したり、日頃の診療の基盤とする理論や論文ややはり自ら読まなければ恥ずかしいことになる。

参考
このエントリーを書くにあたって、重要と思われるが読めていない文献3本

    チェンジング・フォー・グッド―ステージ変容理論で上手に行動を変える. ジェイムス・オー プロチャスカ , カルロ・シー ディクレメンテ , ジョン・シー ノークロス 中村 正和 (翻訳)/ 法研 (2005-09)

    チェンジング・フォー・グッド―ステージ変容理論で上手に行動を変える
    ジェイムス・オー プロチャスカ, カルロ・シー ディクレメンテ, ジョン・シー ノークロス / 法研 ( 2005-09 )

    Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C (1982). Transtheoretical therapy: Toward a more integrative model of change. Psychotherapy: Theory, Research and Practice, 20, 161-173.

    Prochaska, J.O., & Velicer, W.F. (1997). Misinterpretations and misapplications of the transtheoretical model. (Invited paper). American Journal of Health Promotion, 12, 11-12.

TTM理論の変遷を理解するための本人によるTTMの出典/解説3本

    Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C (1982). Transtheoretical therapy: Toward a more integrative model of change. Psychotherapy: Theory, Research and Practice, 20, 161-173.

    Prochaska, J.O., DiClemente, C.C., & Norcross, J. (1992). “In search of how people change: Applications to addictive behaviors.” American Psychologist 47: 1102-1114.

    Prochaska JO, Velicer WF. The transtheoretical model of health behavior change. Am. J Health Promot 1997;12(1):38-48

恥ずかしい間違いシリーズ(参考)

Dale’s Cone of Learning
https://pcij.wordpress.com/2008/04/16

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