ドクターG (ドクタージェネラル)ご存じですか?

勤務する診療所で,一般の方へ向けて発行している通信の2012年8月号に書かせていただいた記事です。
K-ファミクリ通信 第40号(2012年8月発行)
4ページからです。
http://www.kameda.com/about/facilities/kfct/news.html#01

ジェネラリスト(家庭医・総合医)の事やその仕事について理解いただきたいので、そのままこちらに引用します。
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ドクターG (ドクタージェネラル)ご存じですか?

以前からNHKで放送されている番組なのですが,ご存じでしょうか?
Gはgeneral(ジェネラル=幅広い,一般的なという意味)のGで,特定の年齢や臓器に限定して診療を行う医師と対照的に,年齢,性別,臓器,体,心を限定することなく診療することを得意とする医師のことを英語でgeneralist(ジェネラリスト)と呼びます.会社でも特定の仕事だけをする人と,様々な仕事をする総合職や総務という仕事がありますね.彼らもジェネラリストです.日本では総合医などと呼ばれています.総合内科医,総合診療医,救急医もちろん我々家庭医もジェネラリストに含まれます.

このドクターGという番組は芸能人のゲストも参加するスタジオで,医師育成の現場で日常的に行われている症例カンファレンスを指導医と研修医が繰り広げます.医師が行うカンファレンスには様々な種類のものがありますが,この番組で行われているのは臨床推論と呼ばれる医師の能力を研修医に身につけてもらうためのものです.臨床推論とは,患者さんが受診されたときのお話しや診察,検査の結果から病気の診断にたどり着くまでの方法論のことで,未だにこの部分はコンピュータでは完全に真似できないとされています.番組では実際の患者さんの話に基づく再現ビデオから可能性のある病名(鑑別診断:かんべつしんだん)を研修医が挙げ,なぜそれらの病気を想定したのか,その病気だと説明できない部分はあるか等の問答を繰り返しながら研修医達が正しい診断にたどり着くように指導医が上手く助言をします.

この番組を見ていると,2種類の誤解が生まれるかもしれません.1)病気の診断は難しいものだ,ということ,2)ジェネラリストの仕事は診断が中心だということです.ところが現実は1)日常診療をする患者様のほとんどは,標準的な研修を受けた医師であれば診断は難しくありません.珍しい事例だからこそテレビになるのです.また,診断の名医と呼ばれる人たちも,通常はすでに患者様は何カ所もの医療機関にかかってからそこに来ますから,検査や試された薬が効かなかったことなどによって「xxの病気ではない」ということがすでに分かっていたり,最初の医療機関受診から時間が経っており,症状が進んでわかりやすくなっているといった,最初の医師にはなかった有利さがあります.「後医は名医(他の医師が診た後の医者はそもそも有利)」という言葉が我々の世界にはあります.2)日常の診療の大半は診断ではなく治療です.診断は糖尿病でどう治療するべきかも明らかなのですが,様々な理由で薬が飲めない,体重が減らない,運動ができない,たばこがやめられない,という方にいかにやる気になって頂き,治療の主人公になってもらうかといった問題,また,様々な障がいをもつかたのより良い人生をサポートするために,リハビリやケアマネージャー,学校や行政,もちろん患者間のご家族などの協力を得られるよう人事を尽くす,といったことの方が家庭医の仕事の診断をつけることよりもずっとと多く,重要です.

この番組は私自身は,いち医療人として勉強になるので,いつも楽しみながら見ておりますが,なぜ地上波で一般の方にも人気があるのかは今ひとつ理解ができません.どうやら,推理ドラマを見るような,また人体の神秘に触れたり,一見分かりにくい医者の頭の中をのぞき見するような面白さがあるからのようです.
ともあれ,我々ジェネラリストの仕事のほんのわずかな部分である,臨床推論という技術を通して,少しでも医師の仕事を一般の方に知って頂ける良い機会だと思っています.騙されたと思って一度ご覧になってみてはいかがでしょうか.

新シリーズはすでに始まっており,毎週木曜日22時からNHK総合で,7月19日の後はロンドンオリンピックを挟んで8月23日に放送再開予定のようです.

番組ホームページ http://www.nhk.or.jp/program/doctorg/

ドクターG (ドクタージェネラル)ご存じですか?」への1件のフィードバック

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